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英国レポート輪読ゼミ 最終報告会,第8回(2/1)英国との対話

英国のAlexandra Coulterさんとの対話


「イギリスのヘルスケアアートの英語の報告書をみんなで読もう」
第8回輪読ゼミ,最終報告会 2022年2月1日(火)19~21時 オンライン開催


英国のAlexandra Coulterさんとの対話
○ 事務局より輪読ゼミの概要説明
○ クルタ―さんとの対話(進行:阿部先生、逐次通訳)
1. Coulterさんについての質問
2. レポートそのものについての質問
3. コロナ禍に関連した質問
4. イギリスのヘルスケアアートに関する質問
5. 今後のヘルスケアアートの普及についてのCoulterさんのビジョンに関する質問
○ 関係者の感想、まとめ

最終回は、これまでの参加者に加え今回のみの聴講参加者にも参加いただき、皆で読み進めたレポート『Creative Health』の2年間の調査事業の事務局を務めたAlexandra Coulterさんと対話をしました。

これまでの輪読ゼミの内容は下記から確認いただけます。
第1回 ガイダンス、はじめに,第1,2章(8/24)
第2回 前半 第3章:エビデンスに注意を払うこと(9/14)
第2回 後半 第4章6節まで:政策・業務委託(9/14)
第3回 前半 第4章7節:資金調達(9/28)
第3回 後半 第5章:場所・環境・コミュニティ(9/28)
第4回 第6章:幼少期・青年期・若年期(10/19)
第5回 第7章:働き盛りの成人期(11/9)
第6回 第8章:高齢者(11/30)
第7回 第9,10章:人生の終末期,推奨事項と次のステップ(12/14)

レポート『Creative Health』の内容は下記のサイトからPDFが閲覧・ダウンロードできます。
https://www.culturehealthandwellbeing.org.uk/appg-inquiry/

事務局より輪読ゼミの概要説明





はじめに事務局よりこの輪読ゼミの概要やこれまでの流れをスライドに沿って説明しました。


Alexandra Coulterさんは、2015年から『芸術と健康と福祉を考える超党派の議員グループ:APPG』の事務局を務め、『Creative Health』の2年間の調査プロジェクトをマネジメントされました。現在は報告書発行後に設立されたNational Centre for Creative Health(英国国立クリエイティブ・ヘルス・センター)のトップディレクターをされています。



クルタ―さんとの対話(進行:阿部先生、逐次通訳)


阿部先生の進行で、事前に投げかけをしていた参加者からの質問を一人ずつしていきました。日本人参加者は日本語、Coulterさんは英語での対話で、間にプロの逐次通訳を挟みました。



1. Coulterさんについての質問


松本さん「Coulterさんがヘルスケアアートと出会ったきっかけや略歴を教えて下さい。」


Coulterさん「もともと美術家で、大学でファインアートを教えていましたが、1998年に病院のアートコーディネーターの職に就き、15年間病院に勤務しがん患者の病室にスクリーンで自然を写すプロジェクトなどに様々な活動に関わりました。2010年からは地域的なネットワークであるArts & Health South Westでディレクターを務め、その後全国組織のNational Alliance for Arts, Health and Wellbeingを立ち上げました。2013年に文化と健康とウェルビーイングに関する国際的な会議が開催され、そこで『芸術と健康と福祉を考える超党派の議員グループ』が組成され、私が事務局を務めました。2年間かけて調査や会議を行い、多くの方に参加していただきこのレポート『Creative Health』が完成しました。」


2. レポートそのものについての質問


永井さん「このレポートが影響を与えた政策や、実現された成果などあればぜひお教えください。」


Coulterさん「例として下記が挙げられ、その影響は私の想像をはるかに超えています。」


・NHSが長期的計画の中で「1000人の社会的処方に関するリンクワーカーをプライマリ・ケアで募る」と明言。
・保険大臣は「アートが社会的処方の中でも全面に配置されるべきだ」とレポートからの引用文を提示。
・アーツカウンシルイングランドの10年計画の中で健康とウェルビーイングが重要な軸を成した。
・英国国立クリエイティブヘルスセンター(NCCH)を設置。
・リサーチカウンシルUK(英国の研究に関する団体)が文化と自然の資産がいかに健康や保健に関する不平等を緩和することが出来るかについて研究していくことになった。
・いくつかの自治体で健康と文化に関する戦略(クリエイティブヘルス戦略)が立ち上げられた。
・マンチェスターでクリエイティブヘルスの都市圏になろうとコミットメントしています。
・ノースバーランドの公衆衛生のディレクターが「Creative Health」という題名のレポートを発表。
・芸術団体ではこのレポートをバイブルのように日常的な活動で活用。

阿部先生「このレポート完成までに、何が一番大変でしたか?」


Coulterさん「調査、編集、資金など挑戦の連続でした。ネットワークを活用して進めていましたが、支援のインフラが整っておらず困難な道のりでした。しかし、この活動に情熱を持っていましたし、より体系的で持続可能な変化を起こすために挑戦していく必要があると感じていました。」


3. コロナ禍に関連した質問


宮坂さん「アーツインヘルスの観点からコロナ禍でどのような取り組みがありましたか?」


Coulterさん「芸術や医療関係者にとって困難な状況ですが、非常に多くの協力関係を築き、コミュニティーの重要性を理解するきっかけにもなっています。オンラインでの活動や屋外での活動、自宅にクリエイティブキットを配達する活動なども始まっています。公共セクターもコミュニティー支援の重要性をさらに認識し、創造性がコミュニティを支えることも大事だという認識が高まっています。」


長妻さん「コロナ禍での医療者を癒やすアートの導入事例を教えてください。」


Coulterさん「2つの事例を紹介します。ひとつ目はDerby and Burton大学病院のアート団体Air Artsの事例です。アートチームが病院を訪問できなかったため、病院スタッフが自作の詩や作品を壁に飾ったり、歌や演奏を録音する活動が広まり、それに音楽家たちが呼応する形で、オリジナルの音楽『A Grateful Heart』が作成されました。さらに歌を作る過程のビデオも制作され、musicathon(音楽のマラソン)というコンサートにつながりました。
2つ目の事例は、2つ目の例は、Performing Medicineと呼ばれるチャリティ団体による事例です。保護具を常に身につけている医療従事者に向け、いつもコスチュームやマスクを付けている役者やパフォーマーを招待し、保護具を装着していても苦しくならないコツ教えてもらいました。」


「A Grateful Heart」を紹介するAir Artsのfacebook記事より


Performing MedicineのWebサイト


4. イギリスのヘルスケアアートに関する質問


中野さん「活動の資金に関して、健全にビジネス化できる可能性はありますか?」


Coulterさん「この分野を支援する公的資金や慈善基金などがありますし、ビジネスとして取り組んでいる人もいます。我々は‘voluntary, community and social enterprise’と呼んでいますが、多くの場合が社会的企業であり、営利企業はあまりありません。資金調達と活動の持続性は大きな課題で、ビジネスモデルとして成功している例を私はよく知りません。」


Sさん「孤独で貧困に苦しむ人々が犯罪をするのを防ぐのにアートでできることはあるでしょうか?」


Coulterさん「繋がりや目的意識を生んだり、自尊心を高めたり、社会的資本の構築やコミュニティの構築などにもつながるため、多くのアート活動がなされています。
私たちのレポートの中でも、社会的ないろいろな要因がある中で芸術が担う役割があるのだと記載しましたが、『Fair Society, Healthy Lives』の著者マイケル・マーモット氏に下の文章をいただきました。」


“心は社会的決定要因が健康に影響するかを決定する重要な入り口であり、このレポートは心の営みにフォーカスしている。この報告書は、芸術、創造的・文化的活動を通じて心を豊かにすることが、いかに社会的に不利な影響を軽減するかを示す、実質的な証拠となるものです。”マイケル・マーモット

堀川さん「患者や高齢者をケアする効果についての様々な参加型活動、チェスやハイキングとヘルスケアアートの間に違いはあるのでしょうか?」


Coulterさん「デイジー・ファンコート博士による研究から一部引用して下記お伝えしますが、つまり非常に複雑な因果関係があり単純に説明できるものではないということです。」


"芸術がある成果を生み出すという明確で単純な因果関係はなく、むしろアートが何らかの活動を引き起こすよりも可能にすると考える方が適切である。こういった意味で、いかなる変化、健康への影響は関与と意味づけの複雑な状況の中で生み出される。" Daisy Fancourt

佐藤さん「理学療法士や作業療法士が関わっているヘルスケアアートの事例を教えて下さい。」


Coulterさん「すごく関心が高まっている分野で、私も密接な関わりがあります。創造的な活動は今までも作業療法の一環として活用されてきましたが、関わる方たちがアーティストとして訓練を受けているとは限りません。ただ、社会的処方により、異なるアプローチが交差する場所をつくれます。事例として、理学療法とダンスを使って体の弱い高齢者の支援や転倒予防がある他、ダンスセラピーもあります。課題としては、専門職のアイデンティティとヘルスケアとの関係や規制があげられます。」


山本さん「アートセラピストの資格について補足してくださいませんか。」


Coulterさん「正式なトレーニングを受け、医療従事者に関する規制に関する協議会によって認定を受けた人だけがアートセラピストを名乗ることができます。他方、アートセラピストの中にはアーツアンドヘルスの実践者に対して危険性等を十分理解していないと批判する人もいますが、この2つの分野は連携し、一緒にやっていこうという機運は高まっています。」


三ツ川さん「会社におけるヘルスケアやウェルビーイングの向上に効果的な方法は何でしょうか?」


Coulterさん「最近では、従業員のストレスや不安の解消のためにマインドフルネスという実践が進められています。アートや創造的なアプローチはマインドフルネスを補足することができるのではないかと思っています。」


5. 今後のケルスケアアートの普及についての、Coulterさんのビジョンに関する質問


山本さん「体は病気でも心までは病気にならないよう創造的な社会変革が全世界で求められていると思いますが、そのために誰がどのように始めたら良いか教えて下さい。」


Coulterさん「創造性は人にとって中心的なものだと信じています。創造性があるからこそ人は豊かになれ、世界の理解し、繁栄できるのだと。アーティストのGrayson Perry氏の言葉を下に紹介します。
そして、私は我々皆がその社会的変革に貢献できると考えています。英国の公教育では、創造性や芸術は教育システムで高く評価されていませんが、それでも私たちは、変化する世界において創造性が非常に重要だと思っています。」


“アートは、他の人間との交流では得られない、自分自身の一部分にアクセスし、それを表現する手助けをしてくれます。私たちの魂に栄養を届け、無意識のうちに物語を伝えてくれます。アートのない世界は非人間的です。アートを創り、使うことは、私たちの精神を高揚させ、冷静さを保つことになります。アートは、科学や宗教と同じように、私たちの人生に意味を見出すことを助けてくれます。それは、私たちをより快適にしてくれる” Grayson Perry

永山さん「アートが本格的に活用されていくために、どんな活動が必要と思われますか?」


Coulterさん「リーダーシップや統括、企画・計画、人材の計画、デジタルの活用やエビデンスの収集など、幅広い分野で変化が必要です。そして、各分野の専門家をつないでいくことも重要ですし、生きた経験を持つ人たちの声を聴くことも大切になってくると思います。つまり共同して取り組むことが必要です。
英国でもこれまでは草の根的に進められてきましたが、ここ数年、もっと連携して活動できるように、インフラを整備に取り組んでいます。
ナショナルアライアンスという組織では6千人を超えるメンバーを擁し、NCCH(英国国立クリエイティブヘルスセンター)では社会制度を変えて行こうと働きかけており、今まさに変化が起こっています。新しい団体を立ち上げNHSとも提携を組み、英国の42の地域を包含する形で活動を進めていきたいと考えています。」


古川さん「世界が様々な危機に直面している中で、決議決定するポストにいる方々のウェルビーイングがとても重要になってくるのではないでしょうか。今後のビジョンをお聞かせください」


Coulterさん「政治的な分野や領域も含め、様々な分野で活動を一緒にやっていくことが大事だと思います。互いに学ぶことがあると考えています。経験をもとにして学んでいくことが重要で、政策立案者や政治家がよりクリエイティブになるよう支援する活動もできると思いますし、経験をすることで価値をより理解することにつながると思います。」


関係者の感想、まとめ


森口先生「まず印象に残ったのは、英国でも草の根的な活動であったものが今体系的なインフラを構築する知点にまで進んでらっしゃるということです。この報告書だけでも随分大きな学びを得ましたが、今英国はまた大転換期を迎えてますます先を行っておられるのですね。保険制度も異なる日本ですが、イギリスから学ぶところはすごく大きいのでこれからも学び続けていきたいと思います。」


鈴木先生「今回改めて多くのことを学びました。とりわけアートが我々の創造的な生活にいかに重要であるかということです。日本ではヘルスケアアートの領域への公的なサポートは十分ではありませんが、様々な人達が各地で取り組んでいます。我々にとって、クリエイティブヘルスのレポートはとても有益な情報です。
Coulterさんにはいつか日本にも来ていただきたです。今回のこのオンラインでの交流は、日本のヘルスケアアートにとって大きな一歩です。どうもありがとうございました。」


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