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【全国サミット2023 第1部】事業5年間のふり返りと日本のヘルスケアアートの現状


ヘルスケアアート全国サミット2023「これからのヘルスケアアートを考える」
2023年2月23日14:00-17:00 @名古屋市立大学病院附属東部医療センター&zoom


本事業では2018年度より対面およびオンラインでヘルスケア分野のアートマネジメント人材育成のために、講座やワークショップを展開してきました。その締めくくりとして、これまで5年間の取り組みをふり返りながら、日本のヘルスケアアートの課題や展望を考えるサミットを開催しました。当日は会場参加54名、オンライン参加113名の計167名の方にご参加いただきました。
この記事はその前半、第1部の報告記事です。
イベント告知ページコチラ
第2部の報告記事コチラ

第1部 なごやヘルスケア・アートマネジメント推進事業の5年間の振り返りと、
    日本におけるヘルスケアアートの現状


1. 鈴木賢一実行委員長より5年間の事業のふり返り
 (名古屋市立大学大学院教授、なごやヘルスケア・アートマネジメント推進事業実行委員長)

2. 受講生からの事業のふり返りとコメント
佐藤 寿憲(高齢者リハビリ施設 作業療法士)
馬場 千愛(デザイナー、ホスピタルアーティスト)
天野 将明(京都府立医科大学医学部5年生)
谷口 真紀(デザイナー、専門学校講師)
中野 安恵(クリニック等の設計・空間デザイン)

3. 講師からの事業のふり返りとコメント
● 高野 真悟
(アーティスト)
松嶋 麻子(名古屋市立大学医学部附属東部医療センター 救命救急センター長)
由井 武人(京都芸術大学 ホスピタルアートプロジェクト「HAPii+」担当講師)

4. 事業外部推進委員によるヘルスケアアートの現状や課題の整理
岩田 祐佳梨(NPO法人チア・アート 理事長、筑波大学 研究員)
篠原 佳則(安井建築設計事務所 理事、NPO子ども健康フォーラム 理事)
阿部 順子(椙山女学園大学生活科学部 准教授 )
森口 ゆたか(美術家、近畿大学 教授、NPO法人アーツプロジェクト 副理事長)

サミット第1部は動画でも視聴いただけます



1. 鈴木賢一実行委員長より5年間の事業のふり返り


はじめに事業実行委員長の鈴木先生から、なごやヘルスケア・アートマネジメント推進事業の5年間の振り返りをしていただきました。

2018年に始まり3年間は、講座とワークショップ、事例収集の事業を展開し、特に2020年度からはコロナ禍の影響で事業をオンライン化したことは全国の皆さんとつながる大きな契機となり、2021年度からのオンラインネットワーク構築事業につながりました。






具体的なふり返りとしては、下記の事業を画像とともに紹介いただきました。
(それぞれ事業HPの報告記事で詳細をご覧いただけます)
・2018年度:高齢者福祉施設でのアート導入ワークショップ
・2019年度:英国のヘルスケアアートを学ぶシンポジウム
・2020年度:ヘルスケアアート事例集サイトの構築
・2021年度:コロナ病棟のアート企画実施ワークショップ
・2022年度:救急医療のヘルスケア―とを考える研究会


そして、5年間の事業で講師として参加いただいた約50名の講師の方々を「マネジメント」を中心に「医療福祉」「建築デザイン」「アーティスト」といったカテゴリーにマッピングして、ヘルスケアアートとそのマネジメントに関する様々なキーワードや実践を学んできたことをふり返りました。

さらに5年間の参加者が年々増えていくとともに、オンライン化で全国に広がり、各地で実践をされている方や関心を持つ方とのつながりができたことをグラフや地図を見ながら確認しました。



2. 受講生からの事業のふり返りとコメント


続いて、人材育成事業として5名の受講生の方からご発言をいただきました。


2-1. 佐藤 寿憲/高齢者リハビリ施設 作業療法士


2018年度の事業開始当初から継続して参加された佐藤さんからは、自身の務める施設で実際におこなった2つのヘルスケアアート事例を紹介いただきました。どちらも病院スタッフや利用者の方、地域の方が参加されたそうです。今後は自身の作業療法という専門性を生かしたワークショップも企画したいとの話で締めくくられました。



2-2. 馬場 千愛/デザイナー、ホスピタルアーティスト


2019年度から参加いただいている馬場さんからは、講座に参加したことで壁画だけにとどまらないヘルスケアアートのアプローチの多さを知ったほか、救急医療のヘルスケアアートを考える研究会では、グループワークを通してさまざまな職種の方と対話ができたことでの学びを発表いただきました。



また、この事業を通して知り合った全国の方とのつながりを大切にしながら、今後大きな波にしていきたいとの抱負や、自身がホスピタルアートを始めるきっかけになったエピソードもうかがいました。


2-3. 天野 将明/京都府立医科大学医学部5年生


医学生の天野さんからは、2022年度事業の「救急医療のヘルスケアアートを考える研究会」に参加され、医療関係者だけでなく建築やデザインなど多職種連携のプロジェクトを体験されたこと、そして今後もそうした交流を積極的に図りながら、自身が医療にかかわる際には患者さんの目線に立って過ごしやすい環境をデザインしていきたいとのご発言いただきました。


2-4. 谷口 真紀/デザイナー、専門学校講師


2020年度にオンライン化されたときから様々な事業に参加いただいた谷口さんからは、それぞれの事業に参加した際の感想のほか、講座で学んだことを生かしながら、自身が講師として関わる専門学校の学生さんたちと取り組んだ実践についてお話いただきました。


高齢者施設で暮らす方たちの「思い出」や「好きなもの」に沿って学生が制作した作品


2-5. 中野 安恵/クリニック等の設計・空間デザイン


2021年度から積極的に多くの事業に参加された中野さんからは、もっと人の心に寄り添った空間デザインをしたいと思っていたところに、英国のチェルシー・ウエストミンスター病院をテレビ番組で見て、ヘルスケアアートに興味を持ったというエピソードに始まり、本事業に参加してその英国のヘルスケアアートの背景を学べたこと、そして今後、デザインだけでなくアートの視点から学びを深めるとともに、今あたためている企画を実現したいとのお話をうかがいました。



3. 講師からの事業のふり返りとコメント


アーティストや医療者など3名の講師からコメントをいただきました。


3-1. 高野 真悟/アーティスト




彫刻家であり、鈴木研究室でヘルスケアアートの研究を修めた高野さんからは、博士論文での研究を紹介した上で、医療関係者の方にヘルスケアアートを「知って」「実感して」もらった上で、導入を「決断」し、外部の人と「つながり」「任せて」もらえたらというお話をうかがいました。
また5年間の事業に関わる中で、国内外の最先端の事例を知るとともに、さまざまな方とのつながりができたことが大きな財産だとも話されました。


3-2. 松嶋 麻子/名古屋市立大学医学部附属東部医療センター 救命救急センター長



2022年度事業「救急医療のヘルスケアアートを考える研究会」で講師を務めていただいた救急の医師である松嶋先生からは、医療者側と利用者側にあるギャップを埋めるのがヘルスケアアートではないかという問いかけに続き、実際に研究会の場で参加者から提案されたクリアファイルを、東部医療センターの救急外来で使っていく予定であることなどをお話いただきました。



3-3. 由井 武人/京都芸術大学 ホスピタルアートプロジェクト「HAPii+」担当講師




京都芸術大学のHAPii+プロジェクト担当講師である由井先生からは、この2-3年でヘルスケアアートが若い世代に浸透し始めていることのほか、「アートの質」を大切に実践を進めており、集団としての個性で作っていくことの重要性をお話いただきました。


また、本事業でのつながりがひとつのきっかけとなり、徳島大学の田中佳先生が呼びかけてヘルスケアアートに関わる学生の交流団体が生まれているという紹介もしていただきました。



4. 事業外部推進委員によるヘルスケアアートの現状や課題の整理


本事業に対しアドバイスやご協力をいただいている4人の外部推進委員の先生方から、日本のヘルスケアアートの現状や課題、海外との比較について順次お話いただきました。



4-1. 岩田 祐佳梨/NPO法人チア・アート 理事長、筑波大学 研究員





チア・アートの岩田さんからは、医療の現場でのアートやデザインの活動の変遷を俯瞰的にお話しいただきました。具体的には、1990年代に教育機関や任意団体で取り組みが始まり、2000年代には病院というコミュニティと継続した協働プロジェクトが見られ、2010年代には病院のアートディレクターといった専門職や部署ができはじめ、同時に医療者が中心となっての取り組みも散見されるようになったという内容でした。




そして、こうした背景にはウェルビーイングやダイバーシティ、社会包摂といったものへの関心の高まりがあり、今後の課題として「継続の仕組み作り」や「価値の評価」、「人材の育成」を挙げながら、本サミットのように個々のプロジェクトや取り組みがスクラムを組んで大きなムーブメントになっていくよう努める必要があるとお話しいただきました。


4-2. 篠原 佳則/安井建築設計事務所 理事、NPO子ども健康フォーラム 理事


建築設計の立場から長くヘルスケアアートに携わる篠原さんからは、あいち小児保健医療総合センターの建設に先立ち、研究会などを立ち上げ多職種の方との議論を重ね、そうした積み重ねが医療者からの信頼を得るのに必要であったこと、NPOを立ち上げての実践、そして建築設計側としてヘルスケアアートを導入する際の状況などをお話しいただきました。





4-3. 阿部 順子/椙山女学園大学生活科学部 准教授


英国や仏国など海外関連の事業でご協力をいただいた阿部順子先生には、本事業における海外関連のプログラムのふり返りをしていただきました。


具体的なふり返りとしては、下記の事業を画像とともに紹介いただきました。
(それぞれ事業HPの報告記事で詳細をご覧いただけます※一部まだ記事整備中)
・2018年度:キックオフシンポジウム
・2019年度:国際シンポジウム「英国の先進事例に学ぶ」
・2021年度:英国のヘルスケアアートの報告書の輪読ゼミ
・2022年度:連続講座「英国のデジタル分野のヘルスケアアート」
・2022年度:公開講座「スウェーデンの病院における実践」
・2022年度:連続講座「仏国のデジタル分野のヘルスケアアート」







そして最後は、こうして海外とのつながりができ、情報がサイトでご覧いただけるようになっており、本事業を通して世界的な連携まであと一息というところまできているという話で締めくくられました。



4-4. 森口 ゆたか/美術家、近畿大学 教授、NPO法人アーツプロジェクト 副理事長





森口ゆたか先生には、英国ではアートによる民主化運動のひとつとしてホスピタルアートの流れが出てきたこと、2012年にはThe National Alliance for Arts, Health and Wellbeingという全国組織が立ち上がたことなど、英国におけるホスピタルアートの流れをご紹介いただきました。


そして、森口先生が立ち上げられたNPOアーツプロジェクトの現代表の森合音さんが提唱するホスピタルアートの役割に加えて、「定量化されない価値の導入」を挙げるとともに、2022年度から近畿大学医学部でホスピタルアートの授業を選択科目で実施していることなどをお話しいただきました。
最後は、「ホスピタルアートは、現代の医療現場では後回しにされがちな『個としての人間の尊厳』を、アートという手段を用いて回復しようとする活動である」として話を結ばれました。



サミットの第2部の記事はコチラです。
【全国サミット2023 第2部】ヘルスケアアートの課題と展望


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