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【研究会】報告会(12/7) 「英国レポートチーム」の報告

研究会第5回 
英国レポートチームの報告

研究タイトル
「英国の救急医療で取り組まれたデザインプロジェクトのレポートを読み解き英国と日本の相違点を考える」


<担当講師・ファシリテーター>

◎ヘルスケアアートの実践者・教育関係者
岩田 祐佳梨/NPO法人チア・アート 理事長
高野 真悟/アーティスト、事業事務局


発表内容

①レポートの概要
②英国と日本の相違点
 1)デザインプロセスについて
 2)暴力・攻撃のきっかけ
 3)理想的な患者体験
 4)暴力を低減させるデザイン提案

の流れで発表を行いました。



①レポートの概要


和訳したレポートのタイトルは
「救急部門における暴力や攻撃性の低減ーより良い経験を通してー」
です。
英国では救急部門のスタッフが毎日150件以上の暴力や攻撃を受ける現状があります。
そのために職員の満足度低下や離職、年間6900万ポンド(約115億円)の費用
が失われています。

スタッフに対する暴力と攻撃を最小限に抑えるための
デザイン開発プロジェクトの報告書になります。



このレポートはデザインカウンシルとNHSがデザイナー研究者その他プロジェクトを遂行するチームをコンペから選び、
選出されたチームが調査や課題の抽出、解決案の提示と実装をしています。



②英国と日本の相違点
1)デザインプロセスについて 


デザインプロセスはダブルダイヤモンドモデルを採用しています。
ダブルダイヤモンドモデルとは下の図のようなプロセスをたどり、
正しい課題を見つけ、正しい解決策を導きます。



このレポートでも『探索→定義→開発→提供』の重要な4つの段階を踏んでいます。




2)暴力・攻撃のきっかけ 


レポートの中では暴力・攻撃のきっかけとなるパターンが示されています。
加害者の特徴として
・診察や治療に混乱している
・フラストレーションの蓄積
・酩酊状態(アルコール)
・反社会的/怒りっぽい
・不安/恐怖
・社会的孤立
が挙げられます。



暴力や攻撃のきっかけとなる出来事は

人と人のぶつかり合い
進行の遅さ・待ち時間
非日常的な環境
非人間的な環境
激しい感情
安全でない環境
非効率性の認識
一貫性のない対応
スタッフの疲労

などが挙げられます。

個人特性とニーズやモチーベーションの低下した状態だと
上記項目がトリガーとなり暴力や攻撃に発展します。



日本においても
現在の救急医療体制になった1970年代後半では「救急医療に医療紛争なし」と言われていたが、現在では救急医療こそ医事紛争や現場での暴言・暴力の場と化しているのが現状であリマス。1)
2019年の救急医学会総会・学術集会にて、救急搬送された患者が医療者に暴力をふるい現行犯逮捕になったケースが発表されています。

1)野口宏.【救急医療現場における暴力とその対応】救急医療における暴言・暴力の発生原因.エマージェンシー・ケア.2008


感じたことは・・
暴力をふるう患者の特徴は日本と英国で共通する点が多い
 診療や治療への混乱≒小児、認知症患者
 フラストレーションの蓄積≒普段は温厚な人
暴力をふるった患者だけに非があるのか
患者ー医療者間だけに限らず様々な立場の方々の理解・協力が鍵になるのではないでしょうか。

 患者サイド:家族や近親者、介護者など
 医療者サイド:医療事務、デザイナーなど
 その他:警察、行政、メディアなど


3)理想的な患者体験 


それでは目指すべき理想的な患者の体験とはどのようなものなのでしょうか。

患者は待ち時間が全くないという期待を持って受診しに来ます。
しかし実際はそれぞれの段階で待ち時間が少なからず発生します。
認識としては待ってばかりなのではないでしょうか。

アンケートでも患者への情報不足が示されています。




また第一印象がその後の印象に影響を及ぼしていることも指摘されています。



理想的な患者の体験は

挨拶され安心感(第一印象良い)があり、全体のプロセスを理解していて、何処に行って何をすれば良いか案内されている。
混み具合も把握でき、快適な空間で好きなように過ごせることが重要です。
なぜ待っているか、どれぐらい待つ必要があるかも案内されていて、自分は忘れられていない、大切にされていると感じられるような受診が望ましいと言えます。



 4)暴力を低減させるデザイン提案


解決策は3つの大きな方向性を持っています。

1つ目は患者に向けての案内の拡充
2つ目は現場スタッフに向けて講習会、ミーティング、リフレクティブプログラム
3つ目は施設管理者・経営者に向けて

それぞれ提案をしています。



患者に向けての案内の拡充

情報デザインとして「スライス」「プロセスマップ」「タッチパネル」「スマートフォン(将来)」が提案されていました。





日本でもウェイファインディングとしてデザインを取り入れていたり、患者呼び出しシステムなど採用している病院もありますが
英国ほどトータルでデザインされたものではありません。




現場スタッフに向けて講習会、ミーティング、リフレクティブプログラム



スタッフに向けて2つのプログラムが用意されました。
1つは新しく救急外来に配属されたスタッフ向けのイントロダクションパックで救急の文化や心構えを知ることができるものです。
2つ目はピープルプロジェクトで暴力や攻撃性を管理するために経験の共有や振り返り、フラッシュポイントの共有ができるようなプログラムの提供です。



医療者の安全チームの発表にもあったような、どこで暴力が起きているかを客観的に振り返る取り組みが
次の暴力への予防につながっているのでしょう。



日本においてもインフォメーションボードや「医療患者支援ピクトグラム 」の導入で情報の共有を図る動きがみられます。




施設管理者・経営者に向けて


意思決定者に向けたガイダンスをすることで暴力と攻撃を減らすための推奨事項や検証結果の取りまとめをおこなっています。
仕様書は出版物とウェブ上で公開されています。




まとめ

1)日本と英国で共通すること
「暴力をふるう患者の特徴」や「患者が感じる課題+理想とする体験」

2)英国での実践の特徴
 ● 医療スタッフ、行政機関、デザイナーの多職種のチームで
 「課題を定義すること」にも重点を置いた丁寧なプロセスでデザイン
 ●「患者」「スタッフ」「経営者」の各視点での解決策を提案

デザインが本質的な課題を解決する(経営にも影響する)価値があることを医療業界(特に経営者層)に認識してもらえるような働きかけが日本でももっと必要なのではないでしょうか。


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