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英国レポートの輪読ゼミ 第6回(11/30)第8章の発表とディスカッション

第8章 高齢者(Older Adulthood)


「イギリスのヘルスケアアートの英語の報告書をみんなで読もう」
第6回輪読ゼミ 2021年11月30日(火)19~21時 オンライン開催


8章の発表とディスカッション
・発表1:第8章8-1/松本さん
・発表2:第8章8-2,8-3,8-4,8-5/堀川さん
・発表3:第8章8-6,8-6-1,2,3/田中さん
・発表4:第8章8-6-4,5,6,7,8/古川さん
・発表5:第8章8-6-9,10,11,12/佐藤さん

第6回の輪読ゼミは「第8章 高齢者(Older Adulthood)」で、5人の方からご発表をいただきました。当日ご欠席で第7回で発表された方も、本記事でレポートの内容順に紹介いたします。

発表1:第8章8-1/松本さん




8-1 健康的な年齢の重ね方(Healthy Ageing)
松本さん「大学で建築インテリアデザイン専攻の教授をしております。自分自身のテーマが超高齢社会のインテリアのあり方ですので、今回のパートは私自身も非常に勉強させていただけました。より理解が深まるようイギリスだけでなく日本と照らし合わせながら紹介したいと思います。

ちょうど新聞記事で2020年の国勢調査の結果として日本の高齢化率が28.6%と発表されていました。30%に近いですね。そしてイギリスは18.8%と、日本よりは少し低く、日本が実は世界で一番高齢化率が高い状況です。要は65歳以上が7%を超えると高齢化社会、14%を超えると高齢社会、そして21%になると超高齢社会と呼ばれ、日本はもう超超高齢社会というような状況ですが、日本は高齢化のスピードもすごく早くて、世界が日本に注目しているとよく言われます。
ただしもともとデザインやアートに対する考えが日本と海外では違うので、それもふまえた上でレポートの内容を見て行きたいと思います
全般を通して、やっぱり『アートは健全な歳の重ね方の中核』であるという大前提がイギリスにはあるように感じました。」





「そして重要だと感じたフレーズを3つのスライドにざっと挙げてみました。具体的な事例も紹介しつつ、高齢者にとってアートが重要であることが随所にかかれていました。」


・デザインと視覚芸術は、高齢者の幸福と生活の質に重要な役割を果たします。
・高齢者向けの居住施設のデザインは居住者の社会的交流、身体活動、認知的刺激、感情的幸福の量と質に影響を与えます。
・造園、動線、建材、活動拠点のデザインなど、すべてが居住施設の繁栄するコミュニティとしての成功、失敗に貢献します。
・芸術への関与がより良い生活を送るための長生きにつながるかもしれないという命題を探る。
・人生の長寿化
芸術は虚弱を予防
・人生の後半まで働くこと、適切に設計された住宅、精神的に刺激的な活動に生涯従事
・芸術が健康や身体的・精神的な健康状態の改善・維持に役立つ
・健康と幸福感の増加、医療機関への受診や投薬要求の減少
・クリエイティブな高齢化を推奨
・クリエイティブ・アートを使って、個人のウェルビーイングとレジリエンスを高め、維持することができる
・定期的にグループで歌うことは、通常の活動と比べて、高齢者の士気や精神衛生関連のQOLを高め、孤独感、不安、抑うつを軽減
・より良い高齢化の手がかりとして、創造的な活動への参加を促すべき


「次に、2017年頃までの英国や各地の高齢者に関連する政策、取り組みを紹介します。FORESIGHTレポートやスコットランドの高齢化対策計画だとかから、英国の考えや方針が分かります」


「他にも、アメリカの故ジーン・コーエン博士がジョージ・ワシントン大学でNEAの支援を受けて行った『創造性と高齢化に関する研究』や、メンタルヘルス財団による提言なども紹介されていました。発表は以上です。」


8-1のディスカッション


阿部先生「ありがとうございました。松本さんが印象に残った点はどのようなところでしたか?」

松本さん「私はインテリアをやっているのでやはり住宅はとても重要だと思っていて、『適切に設計された住宅』という言葉などは私にとって非常に力強いメッセージとなりました。やっぱり住宅とはただの居場所ではなくて、それぞれの気分が高揚するようなしつらい等、工夫も大事なのではないでしょうか」

三ツ川さん「高齢者にとっての良い住宅とは何だろうと思って聞いていました。自分は長年海外に住んでて、祖父母の介護で日本に帰ってきて古い日本家屋に住んでいるんですが、適切に設計されたというよりも年を重ねるごとに、住んでる人間が最適化してきたような気がします。人生とともにに寄り添ってきた家というか、家そのものがもうアートな感じがします。」

松本さん「ちょうど高齢者の住宅を研究していて、日本家屋は経年劣化ではなく経年変化で、味わいになっていくと思います。その人生とともに一緒に寄り添ってきた家、私はモノの醸成と言っていますが、日本家屋の特徴として結構いいなと思っています。」


発表2:第8章8-2,8-3,8-4,8-5/堀川さん


堀川さん「私も子どもの頃から祖母や母親の介護があり、今でも関わり続けている状況で、その中で自分を支えることが苦しくなってきたときに、趣味としてバレエを習い始めました。音楽を聞きながら体を動かすことで、すごく癒された経験があり、それをお伝えしたいということもありこのパートを選びました。」



8-2 ダンスと転倒予防(Dance and Falls Prevention)

「加齢に伴う現象とは何か。座りっぱなしの生活が増える、感覚運動・認知・身体能力の低下が現れます。結果として転倒リスクが高まり、高齢者の長期療養へ移行する主な原因となっています。NHSの年間コストは23億ポンドと推定されています。
ではなぜ、転倒予防としてダンスなのか。バランス感覚、体力、歩行、姿勢の改善、反応速度の向上などが期待でき、ダンスによるコミュニケーションは孤独感を和らげ、主観的な幸福感が高まると報告されています。
その効果があらわれる期間は、健康な高齢者が週1回、6か月ダンスをすることで認知能力、触覚、運動能力に効果がみられました。」



「このことにより、ダンスを用いた様々なプロジェクトが開催されています。『Dance to Health』は訓練を受けたダンスアーティストが理学療法として、楽しく社交的で創造的なダンスを行なうプログラムですが、完了率72%と高い数値を示しています。『Age UK』でもダンスクラスを支援しており、需要が供給を上回る人気になっています。
調査プロジェクト行った機関の一覧をスライドに列記しましたので後ほどご覧ください。」




8-3 社会的孤立の解消(Combating Social Isolation)

「続きまして、高齢者の孤立の状況はどうか。英国の120万人が慢性的に孤独を感じています。孤独感は、開業医が診察する3分の1を占め、心身の健康状態の悪化、認知症のリスクを高めるといわれています。孤立の状況は、60歳以上の200万人以上に影響を与えています。
では、孤立の定義とは何か。家族、友人、隣人との接触が週に1度以下とされています。その要因に所得格差が影響を及ぼしています。低所得者は裕福な人に比べ、閉塞感・孤独感を感じる可能性が2倍になる。
改善策は社会参加することで健康寿命を延ばし、高齢になってからは禁煙よりも健康に有益であるとMarmot氏が明かしています。また芸術活動は、社会的交流を伴うことが多く、孤独の克服に繋がるとされています。
これらの内容について、定量的な分析をするため、様々なプロジェクトが設立されています。こちらは後ほど右のスライドをご覧ください。」




8-4 処方箋としての美術館(Museums on Prescription)

「社会的処方の一環として、美術館・博物館の可能性を調査。内容は、社会的孤立を克服する上での文化遺産の価値や文化財を媒介とする触れ合いとウェルビーイングの関係についてです。
さまざまな質的分析や量的尺度を用いて7つの美術館で、65~94歳の弱者や孤独な高齢者を対象に、毎週2時間のプログラムを10回実施。内容は、ギャラリーの説明、見学、ディスカッション、展示物の取り扱い、保有物にちなんだ創作活動。結果は、心理的な幸福感が徐々に増し、社会的包容力が上昇する傾向が見られました。」



「別のプログラム『Good Times』は、ロンドン南部にあるサザーク区を対象に体の弱い人、落ち込んでいる人、孤独な人などを、医師から紹介してもらうもので、特に高齢の男性に参加してもらうことを意識していました。幅広いプログラムを無料で提供し、一貫してアクティビティの質を重視。介護者や地域の学校の若者を巻き込み、世代を超えたアプローチを採用していました。結果として、精神的な刺激、自信の向上、前向きな見通しなど様々な利点が判明しています。
右のスライドの活動の一覧は後ほどご覧ください。」



8-5 ケアホームにおける活動(Residential Care)

「イギリスでは65歳以上の総計約63万人ぐらいが施設で暮らしています。イングランドではケアホーム提供の11%が地方自治体によります。
高齢者のうつ病の罹患率は、介護施設で40%以上、地域社会で20%以上になります。
うつ病の現状はどうか。85%はNHSの支援を受けておらず、早期死亡のリスクも50%高く、65歳以上になると75%に跳ね上がります。人生の意味や目的の感覚は年齢とともに低下していき、うつ病の罹患率が高まる要因の一つと想像できます。」



「ケアホームでは様々な特色ある取り組みを展開しています。イギリスの村の生活を疑似体験できるようデザインを用いてケアホームの環境を生き生きと個性的なものにしたものなど、どの活動結果にも、入居者の幸福感やスタッフのケアの質の向上を示す証拠が増えていました。活動の一覧は後ほどご覧ください。」





「最後にまとめ・感じたことを次のスライドにしました。私からは以上です。」



8-2,8-3,8-4,8-5のディスカッション


阿部先生「ありがとうございました。ダンスは音楽と体動かすことで忙しくて、何かつらいことから遮断される。それが良いんでしょうか。それとも単純に心が楽しいのか。」

堀川さん「やっぱりピアノの響きに癒されたり、体を動かして心が開くのを実感してます。」

中野さん「私は鬱々としていたときにジョギングを始めたんですが、続けていくと体が強くなったというか、普段もゆったりと構えてられるようになったことがありました。体の力が湧いてくると心も力が湧いてくるというか。」

阿部先生「なるほど、感情への影響だけでなく、身体的に鍛えられる部分も確実にありますよね。」

堀川さん「そうですね、心に筋肉がつくような感じがしました。」

松本さん「今日は高齢者の章ですが、やっぱりアートは年齢とか関係なく社会との繋がりを作り出すものなんじゃないのかなと思いました。あと、先ほどの日本家屋の話を聞いていて、不便さや手間暇かけることを許容する気持ちを、今、潜在的にすごく求めているような気がしました。もしかしたらそういう気持ちが高齢者へのケアに繋がったり、もしくはその許容するきっかけを生むものがアートなのかなと。漠然としてるんですけど、お二方の発表をうかがって、そんなふうに思考が広がった感じがしました。」


発表3:第8章8-6,8-6-1,2,3/田中さん


8-6 芸術と認知症(The Arts and Dementia)
田中さん「まず英国における認知症の現状として、2015年時点で認知症を患っている人が85万人いたようです。診断を受けていない患者さんも同数いるそうで、また2021年には100万人以上、2051年には200万人以上になると推測されていて、年々増加している状況です。年間コストも約4兆円とでていて、これも年々増加しているようです。
また介護施設の入居者の70%が認知症罹患されているという推計もあり、認知症は83%のケースでと他の疾患と同時に発症して悪化する傾向があるようです。入院期間は最大で7倍に延長し、入院患者の4分の1を認知症患者が占める現状もあるようです。
健康格差に焦点を当ててみると、教育レベルや職業の達成度が高いほど、日常生活で知的・社会的・身体的・創造的な活動への参加度が高いほど、高齢者の認知機能低下が遅いという報告もあるようです。
また恵まれない地域に住む高齢者は豊かな地域に住む高齢者に比べて認知症の発症が早く、認知症で若くして亡くなる可能性が高いという報告もございます。経済的負担では、認知症のコストの3分の2は家族が負担している現状があります。」



「認知症ケアにアートを、といろいろな機関が挙げている声を次のスライドでご紹介します。
英国の国民保健サービスNHSの『The NHS Five Year Forward View(2014)』や、認知症の自立と福祉に関するNICEの品質基準、UCL神経学研究所認知症研究センターのセバスチャン・クラッチ博士、超党派議員グループの認知症についての議長Baroness Greengross氏の発言があります。」



8-6-1 発症を遅らせる(Delaying Onset)
認知症を予防することでの経済的な効果としては、アルツハイマー型認知症の発症を5年遅らせられれば15年間で15兆円が削減できるほか、認知症患者が自宅で生活できることで1人あたり月14万円が削減といった効果が考えられるそうです。
またアートによる予防効果として、英国音楽院の研究では、高齢者における継続的な音楽トレーニングは神経の可塑性を高め、認知症予防のポジティブな結果が得られたと。認知症の兆候がない75歳以上の469人を対象とした研究では、特にダンスが認知症のリスクを低減するとありました。特に参加型の創造的活動と文化的活動の両方が、予防効果があるという報告もあります。
ただ、認知症は発症の瞬間が不確かであったり、時とともに症状が悪化することなどから、論理的なエビデンスの確立には困難があり、さらなる研究が必要と書かれていました。」


8-6-2 認知機能(Cognitive Functioning)
「次はアートによる認知機能の改善の事例についてご紹介します。」



○2014年定年後の成人を対象とした研究では、芸術鑑賞に従事するグループと比較して、10週間に渡り積極的に芸術作品を制作したグループは、脳内の機能的連結性が高まり、それがストレス軽減や心理的回復力に関係していることがわかった
○2015年、ニューカッスル大学は、どのような活動が脳の機能を高めるかを検証した。50歳から90歳の健康成人で、深刻な運動不足の人を「ウォーキング」「数独」「デッサン」を行うグループに無作為に振り分けた。楽しさという点では、アートクラスが最も人気があり、認知機能に関してはすべてのグループで改善が見られたが、明らかにアートのグループが勝っていた。新しいことを学び、精神運動能力を高め、身体的にも社会的にも活動的になることが、このような効果をもたらしたと考えられる。
○フィンランドの研究では、初期認知症患者の介護者に、音楽を聴いたり、歌ったりすることを日常的に導入するようコーチングを行った結果、認知症患者において音楽を聴くことと歌うことの両方が、気分、方向性、遠隔エピソード記憶を改善し,注意力、実行機能、一般的な認知機能も改善することがわかった。また、歌は、認知症患者の短期記憶と作業記憶を向上させた。
○2016年、認知症患者を対象とした研究では「芸術活動は、認知プロセス、特に注意力、記憶の刺激、コミュニケーションの強化、創造的活動への関与にプラスの影響を与える」ことが示された。また、身体的改善効果だけでなく、そのようなセッションが気分、自信、社会的関与に与える影響も同様に重要であると考えられている。

8-6-3 人格と生活の質(Personhood and Quality of Life)
「アートと認知症患者の人格・QOLとの関わりについて。認知症患者の心理的ニーズとして、周囲から一人の人間として受けられ尊重されたいという気持ちがあり、そこでは経験的・関係的なものが重要な要素となると。
そして芸術の専門家は、認知症患者の感情的・社会的な能力を活かすことができるコミュニケーションと自己表現の仕方を提供することで「今、ここ」における意味のある関係を促進するのに適した立場にあるのではないか。また芸術によるアプローチは、認知症患者の創造的な能力を引き出すことに焦点を当てている点で、通常の医療と違いがあり、認知症とともに生きることを許されるときに、認知症は「管理可能な障害になる」といったことが書かれていました。」



「最後に自分が感じたについて。認知症患者は自分自身をありのまま受け入れられたいという心理的ニーズがあることを、初めて知りました。経験や周りとの関わりを提供し、自己表現やコミュニケーションを促すアート活動は、そのニーズを満たすことができるのではないかと思いました。ありのままのその人、認知症を患っているその人を受け入れるというアプローチがキーワードになってくるのかなと感じました。以上です。」


8-6,-1,2,3のディスカッション


阿部先生「ありがとうございました。このレポートは、経済的な効果として具体的な数値に落とし込んでいて、たくましいですね。どなたか感想などお聞かせくださいますか。」

佐藤さん「認知症の方にどういったアートを提供してるのか気になりました。日本での知っている内容だと、体と頭を使うレクリエーション的なものですが、もしかしたら英国ではそうしたものもアートととらえているのかもしれないなと思いました。」


発表4:第8章8-6-4,5,6,7,8/古川さん


8-6-4 音楽(Music)、8.6.5 歌うこと(Singing)


古川さん「私はイギリスでファインアートを勉強してアート活動を始めてその後、国際平和学を学んで、現在はフリーランスで研究をしながらアート活動や通訳をしています。
今回のパートは音楽やビジュアルアートがどのように高齢者の方に影響するのか、結果やエビデンスが具体的に書かれていたので、自分の研究の方にもすごく役立ちました。」





「まず音楽について。イギリスの認知症に関する2013年の保健省の報告では、芸術活動、特に音楽療法の感覚的側面の有益性が報告されている。
標準治療と音楽療法6週間にわたって比較したRCTでは、焦燥感が最初のグループで増加し、音楽療法を受けているグループでは減少し、投薬も減少することがわかった。
特に歌うことでは、脳のさまざまな領域を刺激し、聴覚と感覚運動系の間のフィードバックグループに影響を与えると考えている。
行動学、神経画像学研究によると、歌は作業記憶に関連する脳の領域を活性化することがわかっている。さらに、グループで歌うことは認知症の人のパートナーや介護者に良い影響を与えることがわかっているということです。」



「スライドに示したような民間の非営利団体やチャリティグループが取り組んでおり、特に私は『Music for a While ミュージック ・フォー ア・ホワイル』に興味を持ちました。
ウィンチェスター大学が行った研究プロジェクトによると、週1回2時間の音楽セッションをした結果、入院期間が短縮され、転倒回数や抗精神病薬の使用量も減少すると。この結果は政府の取り組みにおいて芸術戦略が考慮される可能性を示すということです。」


「もう一つが『Music for life』です。介護施設で8週間に渡って即興の音楽セッションを行ったところ、コミュニケーションにプラスの効果や、うつ病の兆候を軽減する、活動や身の回りの世話への参加が増えるといった影響があったそうです。」


8-6-6 ダンス(Dance)




「先ほども話があったダンスについて。
認知症の人に対する『ダンス・ムーブメント・セラピー』の報告では、動きと思考や感情の関連性が強調されている。認知機能の低下を遅らせると同時に、挑戦的な行動を減らし、気分を改善し、生活の質を高めることが明らかにされている。介護施設に入所している認知症患者のためのダンスの報告では、運動能力・バランス・歩行・自己管理・希望などが改善されたというエビデンスが見つかっていると。」


8-6-7 ビジュアル・アート(Visual Arts)




「次はビジュアル・アート、視覚芸術についてです。アルツハイマー型認知症や 前頭側頭型認知症の方は、特定の作品の記憶がなくても、美的感覚が変わらないことが分かっていると。ダリッチにあるピクチャーギャラリーの事例では、視覚芸術に対する美的反応によって、認知症の人のエピソード記憶が強化される可能性が示唆された。また気分や認知能力の向上、仲間に入れてもらえるという感覚の向上など、個人的・社会的に様々な効果が報告されているということです。
サセックス州の住宅ケアホームで行われた人体デッサンでは、2人の美術教師が指導したのですが、その教師のが感じたことが次のようにレポートされています。」


絵を描くという行為は、言葉の一部または全部を失った人にとっては一種の言語であり、参加者や介護者が別の方法でコミュニケーションをとることを容易にします。ドローイングは、参加者自身にとっても、彼らの作品を見る人にとっても、人生の記憶に対する魅力的なものを明らかにしてくれます。

8-6-8 デジタルアート(Digital Arts)





「デジタルアートについて。2012年に発表されたバーリング基金の報告『デジタルアートと高齢者』では、デジタル技術をツールとして使用する場合と、メディア(作品制作)として使用する場合を区別しているそうです。2015 年の更新では、『House of Memories』をはじめとする、デジタル技術の創造的な使用に関する事例が紹介されています。
ノッティンガムアームチェア・ギャラリーのイマジンプロジェクトの一部(2014~17年)では、アーティストがデジタル技術を用いて、美術館に行けない認知症の高齢者のために、芸術作品を鑑賞できるようにした。この分析では、1ポンド費やすごとに1.63ポンドの社会的投資利益率が算出されました。
デジタルアートもすごく注目されていて、多くの取り組みがなされているということでした。」


8-6-4,5,6,7,8のディスカッション


阿部先生「ありがとうございました。古川さんの感想をお聞かせいただけますか?」

古川さん「音楽やダンスなど日本ではどれくらい受け入れられているのかが気になりました。

三ツ川さん「自分の関わっている施設では、お昼にいつもピアノ演奏をしていて、コロナの前は皆で一緒に歌ったりしていました。」

阿部先生「なるほど。情報ありがとうございます。どなたか古川さんの発表を受けてご感想などありませんか?」

宮坂さん「少し話がずれるんですけど、『出川イングリッシュ』を思い出しました。バラエティー番組で出川さんが海外に行って、必死に知っている数少ない英単語とジェスチャーで地元の人にアピールして助けてもらい、結果的にタスクをクリアするんですが、そういう誰もが振り向いてしまうような何かがあって、音楽やアートもそれをうまく引き出しているんじゃないのかなと思いました。」

阿部先生「すばらしいですね。共感したり感情を引き出されるものがあると、人との関係性が生まれますものね。」


発表5:第8章8-6-9,10,11,12/佐藤さん


佐藤さん「作業療法士としてリハビリテーションの仕事をしています。
今回私が担当した4つのパートには、研究や事例の紹介が多くありました。」



8-6-9 パフォーミング・アーツ(Performing Arts)



「最初はパフォーミングアーツです。3つ事例を紹介します。
ひとつ目は『Elderflowers(エルダーフラワーズ)』で入院中の認知症患者さんにプロの方が、舞台芸術活動を提供していて、スライドは懐かしい服やウクレレ、昔の写真などを使い、ちょっと回想法のようなかたちで交流を促しているところです。ネットで調べたところ、コロナ禍で今はZoomを使った活動をされているとありました。」




「2つ目は『West Yorkshire Playhouseウエスト・ヨークシャー・プレイハウス』で、認知症の人にやさしい公演のガイドを発行をしているというものです。音・照明・演出・ストーリーなど認知症の方に適した公演を行っているほか、馴染みのある歌を取り入れて当日の公演でみんなで歌う場面をつくるなどしているそうです。
3つ目は『Inside Out of Mind』という認知症病棟を、患者・スタッフ・訪問者の視点から映し出した90分の劇です。目的は、医療従事者の認知症に対する認識を変え、人間性を再認識させることだそうで、作品は大学が医療病棟を学術的にまとめた観察調査資料に基づき、大学と医療とが連携をして作った作品のようです。」


8-6-10 書き言葉と話し言葉(Written and Spoken Word)




「書き言葉と話し言葉について、ひとつ目の事例は『Welcome to our world』という8人の認知症の方の詩や散文を集めた本です。
次の『Time Slips』は認知症の人とその介護者に創造的な表現を促すプログラム、タイムスリップを対照分析したところ、参加者はより積極的に参加し、入居者とスタッフの交流はより頻繁で質の高いのものになることがわかったそうです。こちらは話し言葉の事例として挙げられていると捉えました。」


「次は『Storybox Project』という事例で、認知症の人とその介護者を巻き込み、活性化させ、力を与える、創造的なストーリーの作りの実践です。認知症の人にやさしいクリエイティブな活動を数百ぐらい提供していて、詩を朗読したりいろんな活動をされているようです。
気になったのが、思い出話をするプロジェクトではないというところで、個人的な記憶を扱うことは、認知症の方にとってはフラストレーションや混乱を招く可能性があるので、セッションはその瞬間を祝うようにデザインされていると。本当に認知症のことを理解した上で、いろんなアプローチをされていると感じました。」



8-6-11 コミュニティ・フェスティバル(Community Festivals)



「コミュニティ・フェスティバルの事例として『Here and Now』というフェスティバルが紹介されていました。ダンス、音楽、ドラマ、ビジュアルアート、デジタルアート、人形劇、詩、映画制作、写真などさまざまな芸術に参加することで、60歳以上の人々の健康と生活の質を高めることが目的だそうです。参加者と医療スタッフ、地方の隣人との間に新たな繋がりをもたらしたということで、脳機能を改善し、コミュニケーションや生活の質を向上させるアートの有効性を伝え、人々が診断を受けたときに、アート組織への紹介を提供できるようにすると良いと書かれていました。」


8-6-12 認知症に配慮したデザイン(Dementia-Friendly Design)




急性期病院の入院患者25%が認知症といわれているそうです。認知症の方には空間認識の問題があるので、急性期病院・地域病院・精神病院で、認知症ケアの環境改善をしたそうです。認知症に配慮したデザインは、転倒・興奮・抗精神病薬の必要性を減らし、自立を促し、栄養・水分補給・有意義な活動への参加を向上させ、介護者の参加を促し、スタッフの士気・採用・定着を向上させることが分かった。そして、コスト削減・患者とスタッフのウェルビーイングの向上にもつながるということです。
2015年に包括的なデザインガイダンスが発行されたそうで『芸術作品は、認知症の人が認知症になる前の生活にできるだけ近い形で生活できるようにサポートするものであり、芸術作品は感覚的・認知的・物理的な障害を克服するのに役立つ』という理解のもと、芸術作品の設置を推奨していると記載されていました。」



「高齢化は医療・社会福祉にとって最大の課題の一つで、私たちの社会における健康格差が大幅に解消されるまでは、高齢者が健康で活動的な状態を維持するのは難しい。そのために有効な手段が芸術への参加であると、書かれてました。現在の高齢者世代が必要とする芸術ベースの資源にアクセスできるよう、あらゆる努力をしなければならないという結論に達したというところで、この章は終わりになります。」




「英国の事例が多く紹介されていましたが、調べてみると日本でも認知症の方の経験を舞台にした例もありました。また、まずは認知症をいろいろな人が正しく理解する必要があるように感じました。
正しい理解のための教材として絵本を最後に紹介します。2冊とも『だいじょうぶ』という言葉が入っていて、この言葉から地域の人たちが笑顔で繋がっている、安心して暮らせる社会を想像しました。そしてそこにアートが何か関われるのではないでしょうか」


8-6-9,10,11,12を含め、第6回全体のディスカッション


阿部先生「ありがとうございました。認知症の方には懐かしいものがいいのかと思ったら、かえって混乱してよくなかったり、デリケートなものなのですね。」

佐藤さん
「そうですね、回想法も意外とすごく難しくて、最後に意識的に終わりを入れないといけなかったり。その昔の記憶と今との区別ができず混乱してしまうこともあるので。」

阿部先生「鈴木先生たちが以前、高齢者施設でアートワークショップをされていましたが、その事例を教えていただけますか?」

高野さん「施設のひな祭り行事に合わせて、コンテンポラリーダンスの公演をしました。同じダンスの公演を2回行って、1回目は皆さんキョトンとしてたんですけど、ダンサーが気を利かせてもう一度踊って、目や表情でコミュニケーションを取るようにしたら、今度はすごく反応が良くなり、高齢者の方も一緒に手を動かしたりして。」

阿部先生認知症やご高齢の方に受け入れやすいやり方があるのかもしれないですね。認知症の方に配慮したデザインの話がありましたけど、何かしらカスタマイズが必要なのでしょうね。」

佐藤さん「認知症には本当にいろいろな症状、段階があって、認知症になっても自立して生活している方もいますし。」

高野さん「今日は参加型の話題もありましたが、タイミングや人によって参加してもらうのが難しいこともありますよね。それを克服するにはどうしたらいいと思いますか?」

阿部先生「以前の回でアートへのアクセシビリティの話題が出ましたけど心理的なバリアもありますよね。」

堀川さん「夏休みのラジオ体操のように、誰もが経験しているもので、スタンプが溜まると美術館のチケットがもらえるようなしくみとか想像しました。」

鈴木先生「突然、ザ・アートを出してもすれ違ってしまうから、高齢者の琴線に触れるものをうまく探し出すというか、その辺は教育とよく似てるなと思うんだけど、その人の持ってる特性を引き出すというのか。」

山本さん「それをきちっと拾い上げて繋げていける人がいてくれたら幸せですね。」

松本さん「急にアートと言われてもダメだと思うので、高齢者と呼ばれる少し前の段階から働きかけるのが大事なのではないでしょうか。」

岩田さん「ファインアートをわざわざ持ちこむよりも、障子や民芸のように日本人の生活の中にもともとあった環境を彩るアートのあり方があるようにも思いました。」

阿部先生「なるほど。今日もいろんなの視点をいただくことができ、大変勉強になりました。どうもありがとうございました。」


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