NEWS 事務局からのお知らせ

イギリスの報告書の輪読ゼミ 第1回開催しました(8/24)

ガイダンスと参加者自己紹介、『はじめに・第1章・第2章』の発表


「イギリスのヘルスケアアートの英語の報告書をみんなで読もう」
第1回輪読ゼミ 2021年8月24日(火)19~21時 オンライン開催


ガイダンスと参加者自己紹介、『はじめに・第1章・第2章』の発表
・鈴木先生から事業概要説明と阿部先生のご紹介
・阿部先生から輪読ゼミの目的と方法の確認
・参加者の自己紹介
・発表例と翻訳方法例の紹介
 「はじめに」「第1章」/阿部先生
 「第2章」/事務局
・参加者の感想
・事務局からの連絡(次回担当割の確認)

鈴木先生から事業概要説明と阿部先生のご紹介


鈴木先生の事業概要説明のスライド

初回ということで、実行委員長の鈴木先生からなごやヘルスケア・アートマネジメント事業の概要や、阿部先生のご紹介をしていただきました。

この事業は文化庁から助成を受け、ヘルスケアアートの分野でのアートマネジメントを担う人材育成をすることが目的です。その人材に必要な能力として、次の3つをあげて説明いただくなどしました。
1.魅力的な公演・展示企画する能力
2.文化芸術の価値をわかりやすく説明する能力
3.資金獲得、営業・渉外交渉等の業務を行う能力

その後、鈴木研究室でヘルスケアアートを手がけた病院を阿部先生が利用されたことをきっかけに、阿部先生とお知り合いになり、阿部先生のお誘いで英国ロンドンで開かれた「欧州ヘルスケアデザイン会議2016:EUROPEAN HEALTHCARE DESIGN 2016」に行き、3つの病院の見学をしたこと、そこでお会いした英国のキーパーソンを招いて2019年の国際シンポジウムを開催したことなどに話がおよび、最後に、2012年ロンドンオリンピック開会式で歴史ある小児病院GOSHが登場したエピソードを紹介し、「国際的なイベントに小児病院が登場するイギリスという国の医療に対する姿勢を、今回の輪読ゼミで読むレポートから学びたい」との話で締めくくられました。


鈴木研でヘルスケアアートを手がけた名古屋第二赤十字病院小児外来


欧州ヘルスケアデザイン会議2016


2019年に名古屋と東京で開催した国際シンポジウム


2012年ロンドンオリンピックの開会式で英国の小児病院が登場した


阿部先生から輪読ゼミの目的と方法の確認



このゼミの講師である椙山女学園大学の阿部順子先生からは、自己紹介とこの輪読ゼミの目的や方法についてお話いただきました。そしてゼミでは一方的な講義ではなく、参加者の皆さんの発表を共有しながら、療養空間がよりよくなるよう全国の皆さんとともに考えて行きたいとお話しいただいた上で、次の目的を説明いただきました。


目的
●『Creative Health:the Arts for Health and Wellbeing』のアウトラインを把握、日本語版概要を完成
●参加者の発表と聴講を通して、課題や有益な情報を抽出
●作業を通じた参加者相互の「学び合い」

翻訳に関しては、DeepLという自動翻訳ソフトを使えば比較的容易にできるので、このゼミでは参加者の皆さんの視点、大事に思うものを抽出し、対話を中心に楽しく学び合う場づくりをつくりたいとお話しいただきました。


参加者の自己紹介


建築設計やデザイナー、アーティスト、大学教員、看護師、美術館スタッフなど、全国からご参加いただいた様々なご職業の方から、お名前やご職業のほか、参加の動機や、このゼミにおけるご自身のゴールについてお一人ずつ順にお話しいただきました。
皆さん、療養環境やケア、アートに関心をお持ちで、英国のレポートから学ぶことで何かしら自身の仕事や暮らしに役立てたいとの意欲をお持ちでいらっしゃいました。
さまざまなバックグラウンドをお持ちの皆さんとこうしてオンラインでつながる機会ができ、これからのゼミが楽しみになりました。


具体的な翻訳や発表の方法・手順について


阿部先生からはまず、レポートの目次を翻訳したものをスライドでお見せいただきながら、翻訳という作業の難しさと本ゼミでは精密な翻訳は求めず、概要を掴むことを目的とすることを改めてご説明いただきました。阿部先生が訳された目次も、今後参加者の皆さんが翻訳ソフトで訳した内容も、より適切な日本語がある可能性があり、それは適宜ゼミの中で多様な職業の皆さんから指摘をいただき修正をしていきたいとのお話もありました。

目次から、このレポートが次のスライドのような構成になっていることが分かります。



続いて、今後、参加者の皆さんに発表をいただく際の準備についてご説明いただくとともに、スマホのAdobe Scanと翻訳ソフトDeepLを使って、翻訳作業をする例を動画で紹介いただきました。


発表準備作業の説明スライド


スマホを使った翻訳作業の動画


発表例1:「はじめに」「第1章 健康とウェルビーイングのためのアート」


阿部先生から発表例として「はじめに」と「第1章」の発表をしていただきました。

「はじめにForeward」
まず、レポートの鍵となる3つのメッセージが紹介されました。


①アートは、私たちの元気の維持と回復を助け、よりよく長生きすることをサポートする
②アートは、高齢化、長期化、孤独、メンタルヘルスの課題解決に役に立つ
③アートは、健康サービスとソーシャルケアのコストを下げることができる

続いてこのレポート発行までの経緯の説明等のほか、我々が進んでいると感じていた英国のヘルスケアアートの取組みについて、オーストラリアや北欧の国々比べるとだいぶ遅れているといった記述もあり、驚かされました。




そして、「芸術はたくさんの難しい喫緊の政策課題への対応に役立つ可能性がある」として、15項目の幅広い例が紹介されていました。


1.すべての人の健康維持のための予防戦略強化
2.フレイルの緩和、高齢者の健康と自立の維持
3.患者の健康状態と療養環境のなかでのより活動的な役割を得ることを可能にすること
4.病気からの回復状態?回復プロセス?を改善すること
5.メンタルヘルスケアの質を高めること
6.ソーシャルケアを改良すること
7.社会的孤立と孤独感を緩和すること
8.自治体の業務を強化し、より団結力のあるコミュニティづくりを促進する
9.NHSの資源のよりコスパのよい使い方を可能にする
10.GPサービスへのプレッシャーを開放する
11.健康とソーシャルケア分野の職員のウェルビーイングを増加する
12.ボランティアの仕事を勇気づける
13.受刑者のためにより人間的でポジティブな存在を創造する
14.建築環境の質を高める
15.社会的・経済的弱者が芸術によりアクセスしやすくし、芸術資源の公平な分配を確実にする

ここまでのレポートの内容を受けて、建築研究者である阿部先生から「エビデンス」に関心を持ったとの提起がありました。
「いつ誰が、アートがウェルビーイングに貢献するというエビデンスを提示できたか?
 →文句なしの科学的エビデンスがないと、病院でアートを積極的に取り入れてくれない
 →エビデンスがあってもダメかもしれない
 →でも、エビデンスを国際的に積み上げることで道は拓ける?」


このように本輪読ゼミでは、レポート内容を読むだけでなく、そこから感じたことや疑問に思うことなどを参加者の皆さんと共有し、対話をしていければと考えています。




続いて「第1章 健康とウェルビーイングのためのアート The Arts for Health and Wellbeing」の発表では、まず概念の整理として、「健康」と「ウェルビーイング」の定義がなされ、両者とも肉体的・知的・感情的・社会的側面を含んだ広い概念であることなどが記述されていました。
「ウェルビーイング」はレポートのタイトルにも入っている重要な言葉ですが、その日本語訳の難しさにも話はおよびました。

「アート」の定義もなされ、純粋芸術だけでなく日常の創造性にもフォーカスしており、建築・デザイン・計画・環境も健康やウェルビーイングにとって重要だと記述され、次のようなアートの効果が紹介されました。


<アートのおかげで:>
〇創造性が想像力と熟考を刺激する
〇自分の内面との対話を促進し、表現を可能にする
〇見通しを変える
〇アイデンティティの確立に貢献する
〇精神浄化作用のある解放感を引き起こす
〇判断から自由と安全の場所を提供する
〇誘導された会話の機会を得る
〇生活状態へのコントロール力を増す
〇変化と成長もたらす
〇所属感情を発生させる
〇協働作業を促す
〇癒しの感覚を増進する





そして、このアートと健康・ウェルビーイングに関する英国の近年の流れと、David Lammy議員(ウェルビーイング・経済に関する超党派議員グループ代表)の主張などが紹介されました。
最後に第1章のまとめと、ディスカッションのテーマの提起をいただきました。

まとめ:
1970年代マンチェスターから始まった「健康とウェルビーイングに寄与するアート」は2010年代には国の政策にまで影響するようになった。しかし、まだ定義や手法の確立には至っていない。
さらなる実践と研究とエビデンスの蓄積が求められている。

ディスカッション:
①artsの訳は、アートでよいか?
②wellbiengの訳は、ウェルビーイングでよいか?
③ウェルビーイングとは結局、日本語で言えば何か?




第1章のまとめとディスカッションテーマの提起のスライド


発表例2「第2章 芸術と健康とウェルビーイングの社会的決定要因」


事務局の伊藤からは、パソコンからDeepLを使った翻訳の仕方の一例を紹介した上で、第2章の発表をいたしました。

2章の冒頭ではWHOの「健康の社会的決定要因に関する委員会」が2008年に出した報告書の提言が紹介されていました。


「貧困層の健康状態の悪さ、国内における健康状態の社会的勾配※、国家間の著しい健康格差は、世界的にも国家的にも、権力、所得、財、サービスの不平等な分配が原因であり、その結果、人々の生活の身近で目に見える状況(医療、学校、教育へのアクセス、仕事や余暇の状況、家庭、地域社会、町や都市)に不公平が生じ、豊かな生活を送る機会が失われている。」

※social gradient=社会的勾配:社会経済的地位が下がるほど健康状態が悪くなる相関関係のこと

その上で、2.1 社会的決定要因と健康に関する政策(The Social Determinants and Health Policy)の節では、WHO「健康の社会的決定要因に関する委員会」の委員長であり、イングランドにおける健康の不平等に関する戦略的調査(Strategic Review of Health Inequalities in England)の議長も務めたマーモット(Michael Marmot)氏のレビューが紹介されています。その中で、
「健康格差は社会的格差に起因する」
との知見が強調されており、
公共政策全体で社会的不平等を是正する Health in All Policies(HiAP)
というアプローチが示され、6つの具体的な政策目標が提案されました。




The Marmot Review マーモットレビュー
健康格差の解消の戦略は、社会的勾配に比例して適用すべき。
→達成するための6つ政策目標
- Give every child the best start in life/すべての子どもが人生で最高のスタートを切れるようにする
- Enable all children, young people and adults to maximise their capabilities and have control over their lives/すべての子ども、若者、大人がそれぞれの能力を最大限に発揮し、人生をコントロールできるようにする
- Create fair employment and good work for all/すべての人に公正な雇用と良い仕事を提供する
- Ensure a healthy standard of living for all/すべての人に健全な生活水準を確保する
- Create and develop healthy and sustainable places and communities/健全で持続可能な場所とコミュニティを作り、発展させる
- Strengthen the role and impact of ill health prevention/健康障害予防の役割と効果を強化する

その後、このマーモットレビューを参照し、2010年に保健省長官が「健康な暮らし、健康な人々:英国における公衆衛生の戦略」白書を発表するなどの変化が起きています。

2.2環境的不運( Environmental Adversity)の節では、生活環境が私たちの心身の健康と幸福に大きな影響を与えること、そして環境を豊かにすることで健康と満足感を向上することもできるということが、いくつかの学説やエビデンスとともに紹介されていました。




2.3 健康における不平等と芸術(Health Inequalities and the Arts)の節では、先のマーモットレビューから導き出された6つの具体的な政策目標と、本レポート「Creative Health」の内容の関連性が示されていました。

そして、2.4 社会的勾配を超えた芸術参加(Arts Participation Across the Social Gradient)の節では、芸術への関わりには年代や経済状況、家族の影響等による、不均衡な状況があることが説かれ、Museums and Healthの円卓会議で「美術館に来ることを期待するのではなく、芸術体験を積極的に提供することが必要」であるとの見解が出されたと述べられていました。
関連する話題としてアーツカウンシルイングランド議長のスピーチや、米国ジョンズ・ホプキンス大学の健康・公共政策担当教授ビセンテ・ナバロ氏の主張なども紹介されていました。




最後に第2章を読んだ上で、感じたこととして次のスライドの内容の発表をしました。



参加者の感想・事務局からの連絡


阿部先生と事務局からの発表を聞いた上で、参加者の皆さんにお一人ずつ感想をうかがいました。阿部先生の発表の中で問いかけのあった「Wellbeing」の日本語訳については、参加者のお一人山本さんからは「達者(たっしゃ)」、鈴木先生からは「ごきげん」という訳語のアイデアが出るなどし、遠い外国のカタカナ言葉が急に身近なものになったような気がして、複数の人とともに読む輪読という場のおもしろさを感じました。

最後に事務局から次回の発表の担当割について相談をし、ワークシートへの記入のお願いをして終了となりました。


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