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英国レポートの輪読ゼミ 第2回(9/14)【前半】第3章の発表とディスカッション

第3章 エビデンスに注意を払うこと(Considering the Evidence)


「イギリスのヘルスケアアートの英語の報告書をみんなで読もう」
第2回輪読ゼミ 2021年9月14日(火)19~21時 オンライン開催


3章と4章6節までの発表とディスカッション
・阿部先生から前回の振り返りと最終回の予定についてお話
・事務局よりチャットと課題シートを使った感想や気づきの共有のお願い
・発表1:第3章3-1,3-2/吉見さん
・発表2:第3章3-3,3-4,3-5/宮坂さん
・発表3:第3章3-6/高野さん
・3章のディスカッション

※以下は後半の記事でご紹介します。
・発表4:第4章4-1,4-2/嘉野さん
・発表5:第4章4-3,4-4,4-5/中野さん
・発表6:第4章4-6/松村さん
・4章のディスカッション
・事務局からの連絡(次回担当割の確認)

後半の記事
https://healthcare-art.net/news/event/entry-223.html

阿部先生から前回の振り返りと最終回の予定についてお話

はじめに講師の阿部先生から、前回の振り返りとこのゼミの最終回についてお話をいただきました。
最終回は英国のレポート発行のご担当者であり、National Centre for Creative HealthのディレクターであるAlexandra Coulter氏とオンラインでつなぎお話をする予定で、日程として2022年2月1日火曜の夜が候補になっています。


事務局よりチャットと課題シートを使った感想や気づきの共有のお願い


前回のゼミの後、参加者の方から課題シートで「発表者の方が発表している際に、各々が気づいたこと、思ったことなどを随時共有できるようにしていただけると、より深く広い視点を持ってディスカッションに臨むことができるのでは」とのご意見をいただきました。
ご提案を受け、今回から発表を聞いて気づいたことや感想を随時チャットでお送りいただくとともに、課題シートでも気づきや感想の部分は他の皆さんと共有したい旨、ご説明いたしました。他の方に共有したくない内容や運営へのご意見なども課題シートにご記入いただき、それは運営メンバーのみで共有する予定です。


発表1:3-1,3-2/吉見さん



今回のゼミから参加者からの発表が始まり、第2回は6人の方に発表をいただきました。トップバッターは吉見さんが担当くださいました。

吉見さん「第1回輪読ゼミの中で、阿部先生から医療の領域におけるエビデンスの重要について提起があったかと思います。この第3章では、エビデンスとは何か、エビデンスの種類、どのように用いるかが書かれています。3章は次のような構成になっていますが、私は1定量的手法と2ウェルビーイングの測定について担当しました。」

3.1 定量的手法
3.2 ウェルビーイングの測定

3.3 定性的手法
3.4 経済的分析
3.5 エビデンスベースの展開
3.6 エビデンスに基づいた調査ミーティング


「最初にエビデンスとという言葉の定義について書かれていました。そのほか冒頭で取り上げられていた印象的な内容も紹介します。」


エビデンスって?
「研究」と「評価」の両方が含まれる
研究:通常、仮説を検証したり、疑問に答えたりするためにプロジェクトや介入策を設計すること
評価:特定のプロジェクトを様々な基準に基づいて、同時進行または事後的に評価すること

・アートが健康やウェルビーイングに重要な貢献をしている、という主張を裏付ける学術研究が増えており、政府機関からの関心も高まっている
・アートという創造的なアプローチが、医学的な手段との比較でその影響を立証する責任を追うことの難しさ
・説得力のあるエビデンスとは何かは、対象者(委託者、サービス利用者、実務や臨床に携わる側)によって異なる
・エビデンスは、学術的に関心の高い分野に集中している(例:アートと認知症など)



「その後の節ではエビデンスの種類を紹介し、将来的にどのように発展させていくかについてのヒントが示されていました。

まず3-1では定量的手法(Quantitative Methods)が取り上げられ、現在の医学の臨床研究において最上位にあるランダム化比較試験(RCT)という、対象集団を試験的操作・介入を行う集団と行わない集団に無作為に分けて影響を測定する定量的方法が紹介されています。「アート療法」のレビューには1000以上のRCTが用いられ、それなりの蓄積はあるようですが、一方で「参加型アート」は体験やプロセスを重視し、サンプルサイズが小さいなどの理由から十分な蓄積がされていないそうです。次が重要になるのですが、定量的な側面だけにこだわると、アート的介入の特徴やその成果を正当に評価できない可能性があり、最近では、RCTから離れ、優れた観察データを重視する傾向が見られ、複数の方法を組み合わせることが推奨されているそうです。」



3.2 ではウェルビーイングの測定(Measuring Wellbeing)について紹介されています。ウェルビーイングという主観的なものを測定するのにいろいろな心理尺度がデザインされていて、いろいろな方法があげられていました。
スライドの3つ目、『Warwick-Edinburgh Mental Well-being Scale(WEMWBS、2008年)』は、7項目の質問に対する回答を『全くない』から『いつもある』までの5項目の尺度で評価してもらうもので、具体的な質問項目を見ていただくと分かりやすいかと思います。

この節をまとめると次のようになりました。
・主観的なウェルビーイングとアート活動との関連性を大規模に調査することが可能となった
・一方で、主に自己申告による主観的な評価が中心であり、一時的な満足感に焦点を当てているという批判
・経済的格差など、ウェルビーイングに影響を与える他の要因を捉えていない」





「最後に気づきや感じたことをお話します。
まず、ウェルビーイングの意味するところがぼんやりと見えてきたように感じました。前回のゼミで鈴木先生がウェルビーイングを『ごきげん』という言葉で表現されましたが、レポートを読んでみると一時的なものよりも持続的な状態のように思いました。言葉にあてはめると、しみじみと長くかみしめることができる幸せ、というところでしょうか。
そして、アートの介入の効果を立証することの難しさ、複数のエビデンスで因果関係を示していく必要があると感じました。
いちばん印象に残った点は、説得力のあるエビデンスとは、対象者(委託者、サービス利用者、実務や臨床に携わる人)によって異なるという点でした」


発表2:第3章3-3,3-4,3-5/宮坂さん


吉見さんの発表に続いて、宮坂さんに同じ3章の3-3から3-5節までご発表いただきました。

3-3定性的な手法(Qualitative Methods)
宮坂さん「先ほど量的方法の課題として限定的になってしまうという話が出てましたが、では質的な部分をどう考えていけばいいのかを続けて話していきたいと思います。
定性的な手法における評価の課題として、同じ経験に対しても個人が異なる反応を示すという点があげられ、それに対し『記述する』という質的な方法により個人とか共有の経験のそれぞれの関係について探ることができると今までは考えられてきました。そして芸術と健康に関するプロジェクトの評価はエピソード記述を中心に行われてきましたが、組織を統括する責任者を納得させるには説得力が弱いという状況がありました。その部分のフォローとして個人のエピソード収集に際し、厳密なサンプリングを行うという手続きが大事になってきます。例えば、半構造化インタビューやフォーカスグループ、参加者の行動観察、日記等です。
事例をひとつ紹介します。この『Restoring the Balance:バランスを取り戻す』というタイトㇽの報告書は、参加者のエピソードや分析に加えて、プロジェクトをコーディネートしている組織や独立した研究者が、定義された基準に基づいて偏りがないよう配慮したケーススタディがまとめられています。この本にはいろいろな写真とか作品が出ているのでアクセスしてみると楽しいかと思います。その他にも参加者にかかる費用やプロジェクトの基金などについても記載されています。」




「次に、医療の方からはどうとらえられているのかというと、『医療人文学Critikal medicalhumanities』という分野があります。近年、この分野では医学の概念を健康と幸福の文脈や構成を考慮に入れて広げることを主張する人たちが現れています。
医療科学アカデミーはその適切なエビデンスの収集と、それらに対する理解を通じて、健康に関する課題や機会に対処する方法を検討してきました。2016年発行の報告書では、『伝統的な学問分野の境界を越えて国民の健康に直接または間接的に影響を与える自然科学、社会科学、健康科学、そして芸術や人文科学の側面を統合する』研究を提唱しています。この報告書には『2040年までに国民のを向上させる』という素敵なタイトルがついています。」



「これまでのポイントとしては質的研究と評価には、より厳密なサンプリング、ケーススタディの詳細な編集、アートベースの共同制作的アプローチの活用が必要ということがわかってきました。」



3.4 経済的な分析 芸術活動の費用対効果(Economic Analysis)
「次に経済的な分析、言いかえれば芸術活動の費用対効果をどう検証していくかという問題になっていきます。イギリスの財務省が発行する『The Green Book』は『中央政府における評価と査定』というサブタイトルがあるように、資金調達のためにプロジェクトをどのように評価するべきかについて、公共部門の団体にガイダンスを提供しています。
ウェルビーイングについても取り組みがされています。APPGAHW(芸術と健康・福祉を考える超党派の議員グループ)は、『ウェルビーイング・アプローチの強みの1つは、非市場財(市場とほとんど関係のない理由で評価される財)をよりよく評価できることである』と指摘しています。」




「次の話を聞くとイメージがしやすくなるかもしれません。
社会経済的な貧困と費用のかかる緊急入院との間には強固な関係があります。イギリスにはいろいろな人種の方がいらっしゃいますが、ハックニーという地域で特に黒人、アジア人、少数民族の男性を対象に、アートを通じたメンタルヘルスの促進を行っている『コア・アーツ』は、1ポンドの投資に対して2.58ポンドの入院回避による節約効果があると試算しています。これは、短期的な投資が長期的な利益をもたらしますよということを提起しています。
先ほど紹介した『The Green Book』は公的資金による活動の社会的価値を見積もる際に、『貧困、剥奪、失業、劣悪な住宅や職場環境が健康に与える影響』を考慮することを求めています。また法的には、2013年1月に施行された『公共サービス(社会的価値)法』で公共サービスの委託者に対して経済的な利益だけでなく、社会的、環境的な利益をどのように確保するかを考えることを求めています。」




「社会的処方プログラムというものがあります。1ポンド投資するごとに最初の1年間で1.20ポンドから3.10ポンドの社会的投資収益率という利益が得られたと報告されています。
この社会的処方社会的処方とは、地域機関が人々をリンクワーカーに紹介する方法です」



「この節のポイントは、公共サービス法という法律でも、社会的・環境的利益をどのように確保するか考えるようにとはっきりと求めているという点です。」



3-5エビデンスベースの展開(Deploying the Evidence Base)
「次に、エビデンスの展開になります。集められたエビデンスは医療や社会的ケアのコミッショナーに注目してもらう必要があり、そこでこのアートのアプローチとして、国立医療技術評価機構(NICE)が臨床科に発行するガイダンスがあります。
まだアートについて言及しているものは多くないようですが、関心のある方はこのサイトにあるget involvedというリンクからステークホルダーとして登録することができます。
このレポートをまとめた方たちは、芸術と健康の研究者がステークホルダーとして登録することを強く求めているとも書いてありました。」




「最後に皆さんに質問をしたいのですが、社会調査やフィールドワークという手法についてネットや書籍で調査してみたことがある人、関心持ってる方ってどれいらっしゃるのかを聞いてみたいです。私からは以上です。」


最後に、ゼミ参加者の皆さんへの質問を投げかけいただきました。


発表3:第3章3-6/高野さん


続いて、3章の最後の節を高野さんから発表いただきました。

3-6エビデンスに関する検討会(Inquiry Meeting on Evidence)
高野さん「これまでエビデンスについて報告がありましたが、エビデンスに関する次のような検討会が開かれたそうです。2016年年9月13日にAPPGAHWが主催で開催され、参加者は実践者と研究者です。次の内容が話し合われました。」


1:エビデンスの統合について
2:エビデンスの意義
3:評価ツールの開発
4:英国に足りない研究
5:今後の課題
6:最後に

「1つ目、エビデンスの統合について、現状バラバラでアクセスしにくいけども、それぞれ充実したエビデンスがたくさんあると。
そこでダービー大学の博士課程の学生によってエビデンスの統合が図られています。コクラン・レビュー・グループ(Cochrane Review group)を結成し、次のようなホームページでカテゴリー別で関連するエビデンスが蓄積されています。」




「なぜエビデンスを収集するか、主な理由は3つあり、まず1つ目に知識を増やすこと。2つ目に、資金調達の説明責任を果たすため。3つ目に反省的な実践を助けるため。
そして、そのほとんどが2番の資金調達の説明責任を中心に行われている現状があるそうです。これによって何が問題かというと、資金が提供されるプロジェクトの多くは短期的なものがほとんどで、その短期的なエビデンスしかできていないという反省がある。
そういった中で、評価ツールが重要になってきます。評価ツールがバラバラだとエビデンスが分かりづらいので、統一したフォーマットが開発されました。この『Creative and Credible』・『Aesop』という評価ツールをもとにPHE(公衆衛生サービ)が『アートと健康の評価フレームワーク』を作成しました。スライドに画像を載せましたが、そのプロジェクトがどのように構成され、どのようなリソース、人材・資金が必要であるかとか、どのようなアート内容なのか、そしてどのように評価されどう発展させるのかなどを、記入していくような共通の報告のためのフレームワークを提供しているという現状が英国にはあります。」





「このように進んだように見える英国ですが、足りない研究についても言及されています。広いネットワークを対象にした研究や、長期にわたる縦断的な研究が足りていないよという指摘が専門家から上がっているそうです。北欧諸国では人口規模のデータが蓄積されているために健康と文化的嗜好を相互に参照することができるとあり、例えば、芸術活動を行っていると死亡率が下がるとか、そういった人口と芸術活動の長期的なエビデンスがあり、それに倣うべきという今後課題が示されました。
分野横断的な研究・長期にわたる縦断的な研究が必要で、そのためには様々な調整と資金提供が必要であると。そして、研究者、実務者、政策立案者、委託者、資金提供者の間でより良いコミュニケーションが必要であると。こういうことが今後の課題であると書かれていました。」




「『最後に』のところで面白い内容が書かれていました。エビデンスはですね、政策に反映される判断材料の一つに過ぎないと書かれていました。
そして、科学的プロセスよりも、むしろ社会的プロセスが重要であると。変化をもたらそうとすると政治的意志とそれを実現しようとする組織的な意志が必要だということをRamsbotham卿がおっしゃっています。
どういうことかというと、エビデンスの内容とか質よりもそれをどうやって広めていくとか活動について周知していくとか、議員に働きかけるとか社会的な根回しとかが政策には重要であるということではないでしょうか。」


エビデンスは政策に反映される判断材料の1つ。
科学的プロセスよりも社会的プロセスが重要。
変化をもたらそうとする政治的意志と、それを実現しようとする組織的意志
   Lord Ramsbotham


「そして、僕が報告書を読んで感じた3つのキーワードを紹介します。
最初はやっぱりネットワーク。違う分野の人たちが繋がってより良いネットワークを地区することが大事なんだと感じました。次に、評価・報告・発展の枠組みをしっかりすることで、また次にいいプロジェクトにつながったりエビデンスが蓄積されやすかったりとか、そういった枠組みのしくみが英国ではしっかりされているんだなと。そして、社会的プロセスが重要だと感じました。
そのような感じで、政策に反映するまでの道筋を見ながらみんなが動いていることを、このエビデンスに関する検討会の文章から読み取れました。
ひるがえって日本においてはですね、以前あるクリニックの先生から指摘を受けたんですけど、例えば自由民主党統合医療推進議員連盟というものがあり、この基本理念の中に『QOLの向上を目ざす』などの記述もあるので、アートとは直接言及はないですが、こうした既にある議員連盟へ働きかけ、政策立案までこぎ着けられれば日本においても活動が活発になるんじゃないかなと感じます。発表は以上になります。」




  
  


3章のディスカッション


3章、3人の方の発表を終えて、ディスカッションの時間を持ちました。

チャットで参加者の方から、「日本においての実施例や研究はどの程度まで現状進んでいるんだろうかと疑問、エビデンスに関しての話し合いとかも既にあるのだろうか」との投げかけをいただき、それを受けて鈴木先生からお話をいただきました。

鈴木先生「例えばぼくの所属する建築学会では、今年はヘルスケアアートに関連する発表はなく、建築ではまだ特定の方しかやってない分野と言えるかもしれません。おそらく看護系できっとたくさんあり、環境やアートに関して研究されている方がある程度いらっしゃると思います。
一方で、アートの方面でいるかというと、、ちょっと分からないですね。森口先生、アートの方ではどうでしょうか」

森口先生
(近畿大学)「私の方ではあまり知らないですね。芸術の分野では、むしろ定量的な測定ができないことを誇っている部分もあるんじゃないでしょうか。私自身アートとエビデンスには懐疑的な部分があって、病院という場所はすべてが定量的な論理的な、再現可能なものでまわっている世界で、そこにアートという定量化できない価値観を持ちこむことに意味があると思っているので」

阿部先生
「おっしゃる通り、そういうお考えもありますよね。一方で公金を使ってやる場合の説明責任として、エビデンスが必要という話が今日のご発表にもありましたね。」

岩田さん
(チア!アート)「女子美術大学が『医療現場のArt and Health』として、2015年までに日本で実践されてきたこの分野の論文のアーカイブサイトを整理されているので、皆さんにURLを共有します。この中では、どの程度スコーピングレビューとしてどういった実証がされているかまでは言及はされてないのですが、今ちょうど、私の研究で2020年までの論文や論考でどんな研究が日本でされているかを調査しているところですので、ぜひ公開できるようにしたいと思います」

阿部先生
「それは楽しみですね。では先ほど挙手をしてくださった宮坂さんお願いします」

宮坂さん
「やっぱり数値化は限界が必ずある思うのですが、今回たまたま私が担当することになった質的研究に関する話で、丁寧に記録していくってすごく大事だなと思いました。例えばアート活動が始まると、いろいろと交渉するわけですよね。いつどんな規模で、誰のために、どこで、お金は、と。そういうことをすごく丁寧に記録してもらう。学術として取り上げられなかったとしても、それを積み重ねが必ず参考になると私は思っています。何月何日に誰々と何を交渉したとか、そうした記述やちょっとした写真でもだけでもすごく大事なエビデンスなんじゃないでしょうか。」

阿部先生
「実践してる人たちにとっては事例の蓄積が次の一歩を踏み出す大きな後押しになるのかなと理解できます。一方で、吉見さんはファンドレイジング関係のご職業だそうですが、やっぱりその立場の方からすると数字、定量的なものはお金がつきやすいものなのでしょうか。」

吉見さん
「アートの領域に限らず、活動のインパクトがどの程度なのかを評価する、評価を大事にする傾向はありますね。税金や財団からのお金や寄付の場合、その活動の結果、どんな社会課題がどの程度解決されたかを、資金の出し手が大事にするという大きな流れがあり、2010年あたりから社会的インパクトとか社会的インパクト評価という言葉で日本にも導入されています。ただけして定量的な評価だけではなく、定量的なもの定性的なものを総合的に見る評価の基準を作ることを、今、一生懸命やっているような状態ですね。基準を作って標準化しようみたいな。そして最先端の話としては、標準化で多様な現場のニーズやインパクトを本当に測れるのかという議論も出てきています。経済的評価についても1ドルに対してどれだけの効果がという話ももちろんあるんですけれども、それだけじゃないよねって議論も行われていて、社会課題も資金の出し手の関心や意思も多様であって、それをどう整合していくのかを考えています。また、税金とか公的なお金では出せない場合も、財団などの資金であればより限られた人たちの満足などを示すことでお金がつく場合もあります。資金の出し手が違えば、意図も違ってきますから」

阿部先生「私も研究者なので、研究費を獲得する際には説得力のある証拠を添えて書かなければいけなくて、その立場からすると、国のシステムの中にアートを根付かせようとすると、こういう枠組みから作っていかないと、医師のように普段、定量的な世界にいる人たちを説得できない。そういう外堀からきちっと作っていくあたりイギリスは偉大だなと思って聞いてました。
3章は発表を聞かれた方のご職業やお立場によって、とらえ方や見方に違いが出やすいところだったと思います。また輪読を続けながら後からこの章をふり返ったりすると、理解が深まってよいかもしれないですね」


※記事が長くなりますので、第4章前半の発表とディスカッションは別の記事でご報告いたします。


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