【全国サミット2023 第2部】ヘルスケアアートの課題と展望
ヘルスケアアート全国サミット2023「これからのヘルスケアアートを考える」
2023年2月23日14:00-17:00 @名古屋市立大学病院附属東部医療センター&zoom
本事業では2018年度より対面およびオンラインでヘルスケア分野のアートマネジメント人材育成のために、講座やワークショップを展開してきました。その締めくくりとして、これまで5年間の取り組みをふり返りながら、日本のヘルスケアアートの課題や展望を考えるサミットを開催しました。この記事はその後半、第2部の報告記事です。
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第2部 ディスカッション「ヘルスケアアートの課題と展望」
1. 上野 淳先生・郡 健二郎先生・鈴木先生の鼎談
「アートの医療福祉分野への普及に向けて」
2. 文部科学省の加藤 敬先生による総括
3. 鈴木賢一実行委員長より「2/23はヘルスケアアートの日」発表
1. 上野 淳先生・郡 健二郎先生・鈴木先生の鼎談
「アートの医療福祉分野への普及に向けて」
上野 淳/東京都立大学 名誉教授、工学博士、元・社団法人日本医療福祉建築協会 会長
郡 健二郎/名古屋市立大学 理事長、医学博士
鈴木 賢一/名古屋市立大学大学院 教授、なごやヘルスケア・アートマネジメント推進事業実行委員長
鈴木先生の進行のもと、はじめにご登壇者の上野先生、郡先生から第1部の内容を受けての感想をうかがいました。
上野先生「自身や鈴木先生の専門である建築計画の分野ではかつては合理性・効率性の面から、病院なら医療者の視点で設計していましたが、21世紀に入るころから利用者側、病院なら患者や付き添いの視点に変わってきました。そうしたことからもヘルスケアアートは非常に理にかなったもので、第1部でそれを確認することができました。
また今日、会場に高校の同級生で元都立小児総合医療センター長の西田朗院長が来ていますが、彼は医療者自ら病院へアートを導入しました。家族がその病院を利用した際、空間が持つやすらぎを実感しました。第1部ではそうした医療者側のほか、アートディレクター側、アーティスト側がうまく連携してすばらしい環境をつくっているのを聞いて、やっとそろったように思いました。
鈴木先生「西田先生、よろしければコメントをいただけますでしょうか」
西田朗先生(元都立小児総合医療センター 院長)「都立小児のアート導入の際は短い準備期間の中で、アーティストと協働したり、患者さんに参加してもらったり様々なことをしましたが、やはり準備期間をきちんと取ること、そして関わる人の身分をいかに確立するかが大事だと思います」
鈴木先生「ありがとうございます。医師の方がこうして建築に関心を持っていただけるのは心強いです。次に郡先生いかがでしょうか」
郡先生「第1部の発表を聞いて頼もしく思いました。名古屋市立大学病院が新病棟になったとき、鈴木先生に小児病棟等にアートを入れてもらいましたが、患者さんがガラッと変わったのを感じました。環境だけでなく受付の応対も含めてだと思うのですが、患者さんの信頼を受けたように感じました」
鈴木先生「ありがとうございます。先生からそうした定性的なところでレベルアップしているという話を聞くと、我々のモチベーションになります。上野先生、イギリスと日本の違いなどは感じられますか」
上野先生「私の研究室の卒業生が渡英しイギリスのホスピタルアートで修士論文を書いたのが20年ぐらい前のことで、つまりその頃からイギリスでは定着していたということですけれど、今日の第1部の発表を聞くと、日本も自信を持っていいように思いました。先ほども言いましたけど、患者や高齢者の立場からの建築計画、デザイン・アートを進めていってもらえればと思います。私は最近の日本の状況を心強く感じました」
鈴木先生「郡先生はイギリス、マンチェスターに滞在されたご経験がおありですが何かコメントをいただけますでしょうか」
郡先生「私が南マンチェスター大学に留学したのはもう30年以上前の話になりますが、既に1%ルールによってアートが導入された病院がありました。ただ一方で鈴木先生たちがチームでされていることも世界に誇れるものなのではないでしょうか」
鈴木先生「イギリスのような制度的なものは日本には今のところありませんが、日本での草の根的な取り組みをイギリスの方との交流の中で評価いただくこともあります。そのあたり上野先生どう思われますか」
上野先生「制度化されることでクリエイティビティをかえって削ぐことが出てくるかもしれないので、今のように草の根的にさまざまな工夫の上で実績をあげていらっしゃる方が健全な気もします。ただこれを全国的な力にしたいので、鈴木先生、これを協会にしてはいかがですか。関わる方たちが連携し情報交換できるような場に」
鈴木先生「ありがとうございます。そうした学び合える場ができればという思いはありました。郡先生、何かアドバイスなどいただけないでしょうか」
郡先生「言えることはひとつ、鈴木先生が継続されることだと思います。鈴木先生は今年でご退職なのですが、鈴木先生が核となってこの文化庁事業を全国展開、多職種の方が集う場にされたということもあり、先日鈴木先生に大学に残っていただけるよう打診しましたところ、このヘルスケアアートをもう少しやらなくてはということで、ご快諾いただきました」
鈴木先生「この東部医療や西部医療も名古屋市立大学病院となり巨大な病院組織を抱える日本でもまれな大学で、そのヘルスケアの拠点ともいえる場で、アートを発信できればという気持ちもあり、お申し出をお受けしました。文化庁事業としては今日で終わりますけれど、何か別のかたちで皆さんをつなぐことができればと思っています。最後にお二人にひと言ずつコメントをお願いできますでしょうか」
上野先生「繰り返しになりますが、鈴木さん、協会をつくるべきだよ。これは建築家や医療関係者、アーティスト、そして利用者も巻き込む社会運動になりそうだし、やるべきじゃないかな。それとアワードをつくって、広く発信できるといいと思います」
鈴木先生「大きな宿題をいただいてしまいました。郡先生いかがでしょうか」
郡先生「総合知という言葉がありますが、このような複合的な力が医療や教育の場に還元していただけるものだと思います。またこの鈴木先生のヘルスケアアート事業をより発展できたのは、文化庁からの支援ですが、当時本学に特任教授として来ていただいていた加藤先生のおかげでもあります。改めて感謝申し上げます」
鈴木先生「どうもありがとうございました。多くの皆さんと一緒にやっていければと思いますので、よろしくお願いいたします」
2. 文部科学省の加藤 敬先生による総括
鈴木先生「先ほど郡先生からもご紹介ありましたが、この事業のきっかけをいただいた加藤先生にご感想などいただければと思います」
加藤先生「今は文部科学省におりますが、2016年に名古屋市立大学に特任教授としておりました。もともと大学や地域にとどまらない展開になることを願っていましたが、事業開始時の2018年はまだコロナ禍前で講座なども対面でやっていました。それがオンライン化によって全国的な広がりとなり、非常にありがたいと思っています」
「今日のお話を聞いておりますと、まさにこのテーマは全国に同じ問題意識をお持ちの方がいらして、すでに取り組みをされている方があり、それが可視化されたのだと思いました。そして、先ほど今後の新たな展開も期待できることが分かり、嬉しく思います。鈴木先生、よろしくお願いいたします。そして、全国の皆さんが力を結集され、ヘルスケアアートが発展されることを期待しています」
3. 鈴木賢一実行委員長より「2/23 ヘルスケアアートの日」発表
鈴木先生「ご発言ご登壇いただいた皆さま、ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。
今日は2月23日ですが、この日をヘルスケアアートの日にしたいと思います。2月23日はヘルスケアアートの日。
来年の2月23日に何か集いができればと思います。皆さん、それまでに何か実績を作ったり、妄想してスケッチを作っておいてください。そうしたものを持ち寄って、来年の2月23日に皆さんにお会いできればと思います。」
最後はご来場者の方、オンライン参加の方にお呼びかけをして、集合写真を撮影してサミットを閉会しました。ご参加、ご協力いただいた皆さまに深く御礼申し上げます。ありがとうございました。