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高齢者のヘルスケアアート事例紹介WS 第4回開催

病院や福祉施設などで実施されている高齢者のためのヘルスケアアートの事例を集めて、事例集サイトに掲載する事業、第4回目を実施しました。

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1.第4回の実施概要


日時:11月24日(水)19時~21時
場所:オンライン(zoom)
講師:鈴木 賢一(名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 教授)
参加者:12名
運営:高野、伊藤、寺井(書記)

ワークショップの第2回~第4回では、3回にわたって、高齢者を対象としたヘルスケアアート事例を発表し、話し合っています。受講生には事例の収集に取り組んでもらい、資料を画面共有しながら、この日は4人に発表してもらいました。持ち時間はそれぞれ20分(10分発表、10分で意見交換)です。


2.受講生による発表「高齢者のヘルスケアアート事例発表3」


(1)小林さんの発表


ご自身が施設長を務める、岐阜県羽島市のデイサービスセンターの事例を紹介くださいました。その建物は、なんと、もとは銀行であったということで一同驚きました。センターは2002年に開設され、現在は運営側の所有となっています。旧銀行の建物は1966年竣工なので、老朽化は否めないとのこと。適切な修繕ができていたわけではなかったため、少しでも快適で癒しのある空間にすべく、ヘルスケアアートを意識して取り組まれているそうです。

今回の発表では、お風呂の脱衣所の様子をお話されました。そこは、元金庫! 壁が汚れていましたが、色を塗り直して、床を張り替え、お風呂の入り口には「ゆ」というのれんをかけました。「アートをそれなりに行おうと思うと予算が中々とれないのが実情である」「利用者やボランティアの参加型へ導きたいが、もう少しずつ取り組みを重ね職員の意識付けを行っていきたい」という今の思いを語ってくださいました。

鈴木教授や受講生からは、むしろ元銀行というユニークさを押し出してもいいくらい!見学してみたい!という楽しい反応が寄せられました。しかし元銀行であるゆえに下水などの水回りが難しいなど、古く用途の異なる建物なりの困難は多いそうですが、これからを応援したいです。


建物の外観(写真/発表者資料より転載)


もとは金庫であった場所が脱衣室になっている(写真/発表者資料より転載)


参考URL
日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト2021
建築デザインを重要な要素として位置づけ、福祉施設のさらなるアップデートとこれからの地域社会づくりをサポートするための新しい助成プログラム。事業実施団体と設計者の協働による建築デザイン提案を含む建築関連事業プランを募集。※今年の募集は終了しています

(2)鈴木さんの発表


海外の多数のアーティストと関わりを持つ鈴木さんは、スコットランドの「Artlink」という組織の、ホスピタルアートの事例を教えてくれました。エジンバラ市内の4つの病院を中心に、アーティスト、パフォーマー、ライター、詩人、歌手、音楽家などが継続的にプログラムを提供しているもので、とくに多様なテーマに沿った参加型のワークショップが特徴。コミュニティーを形成しながら、患者さん、地域、行政などを巻き込み、活動しているようです。

「エジンバラ・ロジアン・ヘルス・ファウンデーションによる助成を受け、宝くじ基金、読書の友の会、エジンバラ・ボランティア協議会、スコットランド書籍財団、エジンバラ市議会の協力を得て運営されているホスピタルアート事業」とのことで、このような行政・市民団体・個人が積極的に協力する構図は、「これからの日本でも参考になる」と鈴木さんがお話されました。


団体のHPはこちら


Artlink Hospital Arts
 ※以下に掲載する資料の元画像は、HPよりお借りしました


定期的に配信されるニュースレターの表紙。発表者の資料より転載(元画像/Artlink HPより)


定期配信のニュースレターでは、プログラムの進捗情報などがわかる。発表者の資料より転載(元画像/Artlink HPより)


プログラムの進捗が分かるニュースレターのページ。発表者の資料より転載(元画像/Artlink HPより)


鈴木さんは、他にも、海外から参考になるヘルスケアアート事例や話題をまとめてくださいました。


ニュース記事:ファイン・アートは良薬。世界の病院がアートの治癒力を実験している(July 29, 2019)
‘Fine Art Is Good Medicine’: How Hospitals Around the World Are Experimenting With the Healing Power of Art

草間彌生さんのカボチャが置かれた病院が登場しています

写真家によるアートプロジェクト
behind the window by France Dubois (Belgium, Brussels)

18世紀に建てられた歴史的かつ個性的な建物が高齢者施設向けの住宅の基準に基づいて改修される間際に、その空間や居住者を1年間かけて撮影したポートレート・プロジェクト。(鈴木さん説明より)

AICウェルネスプログラム
Agency for Integrated Care (AIC) Wellness Program (Singapore)

AICウェルネスプログラムでは、シニアの方々に有意義な活動を提供することで、健康と生活の質の向上を目指しています。このセクションでは、元気に自宅で生活している方や、コミュニティケア施設(ナーシングホームやセンターなど)でサポートを必要としている方など、さまざまなシニアの方に向けたリソースをご紹介しています。たくさんの教材(教本)がHPに掲載されており、ダウンロードできるようになっています。(鈴木さん説明より)

フランク・ゲーリーによる建築「Cleveland Clinic, Lou Ruvo Center for Brain Health」
Brain Health Building by Frank Gehry (America Nevada)


右脳と左脳の機能の違いを建築にも反映。13の診療室、27の個室、リサーチ・エリア、講堂、ミュージアム・オブ・マインドが備えられた4階建て、右脳と左脳の機能の違いを建築にも反映した建物。(鈴木さん説明より)

オーストリアの複合温泉保養施設
Rognar Bad Blumau (Austria, Bad Blumau)

グリーンルーフ、有機的な曲線、カラフルな装飾を伴った複合温泉保養施設。環境保護活動をするオーストリア人アーティスト、フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサーによるデザイン。(鈴木さん説明より)

マギーズセンター:がん患者さんのためのサポート・センターの施設例
Maggie's Centre Lanarkshire by Reiach and Hall Architects (Scotland, Airdrie)
マギーズセンターの取り組みについては こちら

がん患者さんのためのサポート・センター。がん患者さんやご家族へ無料のサポートを提供する。建築、家具、アート作品など、個性豊かで先駆的な試みを、英国をはじめ、香港、日本、スペインと広く展開している。事例の一つには、知人アーティストであるAlan Johnston氏とNiel Gillespie氏の所属する建築事務所の手がけたセンターもある。(鈴木さん説明より)

(3)嶋田さんの発表


福井在住の嶋田さんからは、ご自身が取り組んだ参加型の展示プロジェクト「ふくあかり2020」の活動を紹介くださいました。百貨店の西武福井店が会場で、繊維産業の盛んだった福井で、ハギレに着目し、イルミネーションとかけ合わせた作品をつくったそうです。

具体的には、ハギレ(布)を使ってイルミネーション用のパーツをたくさんつくり、飾りつけます。その際に、高齢者をはじめとした幅広い世代の方が、「ラミネートする、ハギレを切る、結ぶ、布を選ぶ、貼る、電飾を設営する」などから、興味や運動能力に合わせて作業を選べるようにし、準備・飾りつけ・鑑賞まで、参加して楽しめるように工夫されたそうです。昔話に花が咲いたりと、協働することで世代をこえた交流ができるなど、コミュニケーションが生まれました。また「西武は、福井を象徴する歴史ある建物のため、ここを飾ることで誇らしい気持ちになる」といった話もありました。


嶋田さんは、Re Guild Ayanasという団体を立ち上げ、ヘルスケアアートに取り組んでいるとのことです。ご興味あるかたはHPをご覧ください!


HPはこちら


Re Guild Ayanas(リギルドアヤナス)


会場の様子(写真/発表者資料より転載)


制作風景(写真/発表者資料より転載)


(4)田中さんの発表


田中さんは、認知症患者さんをおもな対象とした対話型アート鑑賞プログラム「ARTRIP®」(アートリップ)を紹介されました。


アートリップとは、アートを通した時空の旅。
グループでアートを見て、進行役のアートコンダクターの質問に答えながら参加者が感じたこと、思ったことを自由に発言、共有する「対話型アートプログラム」です。認知症の方と家族と一般の方が対等に一緒に参加することができます。
プログラムに参加することで自尊心が高まり、うつが軽減、QOLが向上します。美術館、高齢者施設、カフェ等で定期的に実施しています。

(団体HP「アートリップとは」より転載)

HPでは、主催者がプログラムを始めようと思ったきっかけも記載があります。また、国立長寿医療研究センターによる認知症予防、鬱軽減効果の検証についても記載があり、「うつの軽減と単語記憶力の改善兆候と行動変化がみられた」とのことです。


「現在、高齢者の約20%が認知症と言われており、高齢者のヘルスケアアートを考える上で認知症を患う高齢者についてもアプローチを考えたいと思った。色々な事を忘れてしまったり、出来なくなったりし、叱られたり否定されたりする事が多い認知症患者が、自分の感じた事を素直に表現しそれが周りに受け入れられるという経験は、自尊心の向上や喜び、症状の改善につながるのではないかと感じた」と、田中さんがこのプログラムを紹介しようと思った理由を話してくださっています。

下記記事でも、プログラムの様子を知ることができます。


ニュース記事:認知症の人にアートな刺激を「表情が変わる」 家族も楽しむアートの旅(2018.12.05)

3.受講生の感想


今回も多様な気づきについてコメントをいただきました。


  • 銀行というシンボリックな建物の活用事例は、予想外でとても興味深い文脈だと思いました。昔は人がお金を預けたり、借りたりと、街の経済的なポンプとなるような建物を高齢者施設として活用されたという発想は面白く、更なる活用の可能性があると思いました。
  • 本当にアートとは幅広いなと感じます。特にイギリスの建築物は個性的で、日本の高齢者施設がいかに現実的かつ、予算をそぎ落としたものであるか、「箱もの」であるかを見せつけられているようで、切なくなります。
  • 福井の、発表の場を商業施設など病院の外に設けることで、個人的な達成感や社会貢献などを実感できるプロジェクトの事例はとても勉強になりました。そして、そのような成果物の発表を鑑賞したり、感想を聞いたりすることで、対話を深め、共感できるセラピー効果としても効果的だと実感しました。
  • 対話型アート鑑賞ワークショップは、何か(アート)を介するとコミュニケーションが活発化するのが面白くて、日本は「対話」が少ない社会だと思うので、子どもの頃から(欧米のように)教育にこういうワークショップをもっと取り入れるといいのにと思います。人の話に耳を澄ませて、自分も思っていることを発言する、という社会をつくっておくと、認知症になる前もなった後も、少し気楽に過ごせるのではないでしょうか。
  • 仕組みを作る人、患者さん、家族、アーティスト、職人さん、鑑賞者など、多種多様な人材が広く繋がり、適材適所で活躍できる人材、能力、時間、知識といった多種多様な「リソース共有」の場や仕組みの構築が重要だと思いました。最近、活用されているクラウド・ファンディングのホスピタル・アートへの応用には、かなりの可能性を秘めていると思いました。
  • 人として当たり前の欲求を少しでも満たせることにアートが役立つといいです。

次回は、本WSの最後の会となります。
これまでの事例発表のおさらいと、講師をお呼びしての意見交換をおこないます!
対話の様子を、こちらに掲載する予定です。


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