連続講座第7回「病院運営におけるアートの役割」
2020年8月19日(水)18時半から、zoomにて、連続講座第7回「病院運営におけるアートの役割」を開催いたしました。約100名が参加しました。講師は耳原総合病院の院長でいらっしゃる奥村先生。耳原総合病院は、2015年の新病棟建設を機に本格的にアートを取り入れるようになり、現在はアートディレクターが複数名在籍する日本で数少ない病院となっています。
*耳原総合病院については、当事業のHPで過去にも記事を掲載しています
あれっ? サンタクロースがいる!
講義が始まる前のzoomには、耳原総合病院のアートディレクターさんのアカウントや、近畿大学の森口ゆたか先生など久しぶりにお会いできる方もご参加くださり、盛り上がっていました。そこになぜか「サンタクロースin堺」というアカウントが……!
当然皆さんも分かっていらっしゃると思うのですが、これは、大阪生まれの大阪育ちである奥村先生のユーモアなのですね。いつか使おうと思って用意していたコスプレをやっと使う時が来た!と、サンタクロースに扮して受講生に紛れて、参加くださっていたのです。
事前打ち合わせでは、ご自身の講義で、受講生が笑ってくれなければ自分が講師をする意味がないと断言されていました。こうした「笑い」「ユーモア」「ボケとツッコミ」の文化は、関西圏のヘルスケアアートが成功する要因に思えてなりません。
ホスピタルアートは可能性ではなく、役割である
奥村先生の講義の中心となるメッセージは、最初のスライドで表現くださっていました。すなわち「ホスピタルアートは可能性ではなく、病院の中で確実に役割のあること」ということでした。
「医療・介護・教育・福祉といった公共の活動は政策=政治そのもの」
「コロナのなか、ギリギリの医療提供を行ってきて確信」
「メセナの対象としてのアートではなく、投資対象としてのアートではなく」
「医療人(ひと)のこころを癒やし、使命感を維持させ、人に興味を持たせ、やさしさを継続させるという大きな役割がある」
というメッセージでした。
受講生からの感想
アートを肯定する、アートが役割になる
- アートの可能性の時代は終わり、役割、必然の時代になる、ということを実感。
- アートを絶対的存在として肯定してする病院の姿勢はアートをするもの、病院にアートを持ち込みたいものにとってとてもありがたいものだと思った。
- 「病院経営にとってアートは可能性から役割に変わった」というお話にとても勇気をもらった。
- 院長が全幅の信頼を寄せてアートディレクターによるヘルスケアアートを実践させていることの意味。
- 病院は病人がいるところではなく人、そもそも人がいる場所、生活の場所。だから、病院にアートがあって当たり前になっていくはず。そんな未来の時代を強く感じた。
エビデンスだけにとらわれない、医療現場からの声
- 院長自らが、病院におけるアートを推進しているその推進力が、アートディレクターによりさらに大きくなっている。これまでの講義で、「成果を数値で示す」といったことも何度も出てきていたが、少なくとも自身や他の医師・職員の安らぎになるものであったりすれば、決してマイナスではない。
- アートや人材を積極的に導入した実際の医療現場の明るさが伝わった。
- 「病院は臓器でなく、ナラティブを持った人を扱う職場」であるということが、心に響いた。
コロナの状況下でアートを実践したこと
- 現在日本中が直面しているコロナ禍で疲弊しているスタッフの心に、アートが響いているということがとても嬉しく思った。
- 今回のCOVID19下では、アートは病院にとって大きな癒しや活力となっている。
- 患者さんやご家族に対しては勿論の事、アートはコロナ禍でスタッフの緊張する気持ちを癒す役割が大きく、廊下の「空の絵」やラジオ番組の歌などが病院のパワーとなることを具体的に示していただいた。
- 空の写真を沢山飾るだけでどうなのかと思ったけど、結果的に沢山の人を癒すことになったというお話では、数値や即効性を検証しにくい中、こういった経験を病院内で積み重ねてアートの力を共通認識にしていくことはとても大切。
- コロナの状況下で、実際に、アートチームの創作で勇気をもらったという声があったということは、アートが可能性ではなく役割だということを実証している。今までの講義では、病院にアートを取り入れるにはエビデンスが必要になる、という難しい課題があげられており病院にアートを導入するハードルを感じていた。しかし、アートにより病院の雰囲気がよくなれば、こだわりに凝り固まることから解放され、リスクマネジメントにも繋がる、そのことを病院で働いている医療者の声で言っていただけることが、とても励みになった。
明るく楽しい病院に
- 21世紀は病院が街のシンボル!ワクワクドキドキする病院。
- 業務かアートか遊びか分からないと仰っていたお話では、病院という制限が多いと思われる環境でも、そういった取り入れ方で明るく楽しい職場環境を作ることが出来るということにとても新しい病院の価値観であり、今後どの企業でも取り入れられるべきだと思った。
- アートを学んだ学生などが進路先に医療機関を選ぶ日も遠くない。
- アート作品が大事なのではなくて、アート導入のプロセスで人間関係やコミュニケーションが育まれることが大事なのだと再確認。
- ERでワークショップ方式でホスピタルアートを行った際に、消防隊などの他機関の関係者と一緒に理念を共有し、チームビルディングにもなったという話。一方で、思い入れもなく単に購入しただけのアート作品では、そのような役割は果たせないということ。
- 美術館だけでなく「病院も発表の場」として捉えたらいいという発想が面白い。
対談コーナー
奥村先生が講義中、「みんな笑ってる?どんな顔しているの?」と何度も確認されていたのが印象的でした。すると、受講生がチャットで「とても面白いです!」と返答し、さらには今回の講座で講師をしてくださった山口先生もツッコミを入れる様子が……。皆さま、ご参加ありがとうございました!
次回は受講生からの発表となる第8回、最終週です。