事務局からのお知らせ

事務局からの連絡事項、活動報告など

アートミーツケア学会というものがあることを、恥ずかしながら事業に関わって初めて知りました。その大会が11月初旬に開催され、ヘルスケア・アートからも複数名参加。プレゼンが同時進行する分科会形式もあってすべては聞けませんでしたが、印象的だったものを寺井がレポートします。学会については下記HPをご参照ください。

アートミーツケア学会
学会のプログラム詳細(運営母体の一般財団法人たんぽぽの家にリンクしています)

言葉と絵に注目して語る 生きなおす力


基調講演は作家の柳田邦男さんの「生きなおす力を探索する」。死や病い、災害や事故、経済的な破たんといった個人や地域などの再生やその力について、レジリエンスという言葉が使われるようになりました。さまざまな生きなおす力があるなかで、柳田さんはとくに「言葉」と「絵(絵本)」の力に注目して話されました。

言葉の力では――
ショックや悲しみ、苦しみ、怒りといった心の中の混沌状態が、言葉で表現し文脈を作ることで整理され、心にドアを開けることができる。自らの人生の意味を発見し、納得し、さらに深く表現ができ、心の整理はもっと進む。具体的に俳句や闘病記、傾聴を紹介し、心の中の整理が生きる力につながることを説きました。

絵の力では――
絵本は子どものためのものであるという考えはウソであると話し、絵本が心の深いところに響き生きなおす力につながった事例を3つ紹介されました。「だいじょうぶだよ、ゾウさん」という絵本(上写真)では、幼い少女が物語に自分を重ねることで、きょうだいの死を受け入れることができたという話でした。また絵で表現することの意味として、言葉では表現できなくても絵に心の世界が現れること(絵をかくワークショップの可能性)などを紹介されました。


最後にこれは私にもできそう!と思う柳田さんの話がありました。
絵本を読み聞かせするとき、「ただ読むだけではダメ」であると。まず子ども(相手)の興味をひきつけなくてはならない。そのとき柳田さんは上のような雲の写真を見せるそうです。

「これ、何に見える?」


すると子どもは好き勝手にあれこれ想像して言ってくれるそうです。柳田さんもちょっと描き加えて、「ラクダに見えるね!」などと答えるそうです。こんなやりとり一つを最初にするだけで子どもの目線がぐっと集まり、一気に話し手と聞き手の距離が縮まるそうです。例えば医師と患者といった間がらでも、こうしたアイディア一つで変わりそうだなと思ったのでした。

ケアするアーティストに必要な芸術的スキルと感性とは


即興で音楽をつくるワークショップ(WS)もありました。世界で芸術教育プログラムを実践されているマイケル・スペンサーさんのインタラクティブ・プレゼンテーションです。内容説明の一文目にはこう書いてありました。「ケアをする立場で働くアーティストに必要なのはさまざまなスキルと感性です」。

その場で何やら音楽のWSをすることは分かったのですが、いったい何が始まるのかみなさん不思議な顔で座っていました。 はがき大の紙に異なるマーカーで絵をかいたり、何種類かの楽器を手にしてスタンバイしたり。説明を聞き、言われた通りある条件が重なったら自分の楽器の音を鳴らします。すると約5分ほど、夜明けから始まり森の中の風景が広がって鳥がさえずり、そして雨が降り、また夜が来る。そんな即興音楽が奏でられました。色と音が空間をつくることを体験するWSだったようです。
マイクさんはこうしたWSを通して芸術的・社会的な相互交流(インタラクティブ・パーティシペーション)を引き起こし、社会的孤立感を軽減させたり自尊心と独自能力を高めたいと考えているそうです。

エビデンスが1つあるだけでガラリと世界が変わる


「エビデンスとは何か? アート活動におけるジレンマ」では、加藤先生(名古屋市立大学大学院教授、学長特別補佐)と森口先生(アートミーツケア学会副会長、美術家、近畿大学教授)が「なぜ今エビデンスなのか」という話題提供をされ、参加者との対話をしました。

イギリスでは社会的問題の解決にアートが役立つといわれており、それはアートによって国民の幸福度が上がるという具体的なエビデンスが得られているからだそうです。森口先生からはそうしたイギリスの例を示す報告のスライド提示がありました。加藤先生は、日本においてもアート活動をするにはエビデンスを示していかなければ予算獲得が今後厳しくなるのではないかという予測を話し、ホスピタルアートであれば「入院日数が減った」「それによって医療費も削減できた」などの病院経営としても喜ばしいことが結果として現れれば文化予算の獲得がしやすいと話されました。

参加者からは、「定量で表せられないアートの効果もある」などの話がある一方、「緩和ケアで抗がん剤を使うよりも寿命がのびたというエビデンスが出たことによって緩和ケアに世界中の注目が集まり、ムーブメントのようになった」という話もありました。

事業を継続するための事業評価の重要性

佐倉市立美術館からは、対話による美術鑑賞プロジェクト「ミテ・ハナソウ」プロジェクトの一環として、介護老人保健施設でのアート活動の報告がありました。それ自体も興味深かったのですが、事業継続のために外部専門家に依頼してプロジェクトの調査分析を行っているという点に驚きました。その結果はきっちりと報告書にもまとまっており、調査分析を通してただ評価をしたいわけではなく、プロジェクトの目的や意味なども浮き上がっていることに共感しました。

介護老人保健施設での活動については、「高齢者の心身がどれだけ健康になったかというエビデンスをとるには至っていません」ということでしたが、事業を継続するためにエビデンスは有益であると話していました。

この発表では、評価指標をつくる枠組みとして「ロジックモデル」という概念や、「社会的インパクト評価」の導入、「アウトリーチ」や「アウトカム」という考え方、また美術館の作品鑑賞の方法として「ビジュアルシンキングストラテジ(対話型美術鑑賞)」という手法の紹介もあり、視野を広げることができました。

エビデンスを重ねることで病院へのアートの導入が進む

札幌市立大学から、アートインホスピタル「風の家/Breathing House」の実践報告がありました。国際的に評価されている美術家であり建築家でもある山田良さんをアーティストにむかえ、山田さんの意見を重視しながら進められたプロジェクトで、参考になる要素が多い発表でした。まず、作家が病院にふさわしいアート作品を考え制作し、それを病院に売り込むという手法がめずらしいと思いました。実際に札幌市内のすべての病院に提案したところ1病院から「ぜひやりたい」との回答が得られ、設置し、効果を知るためのアンケートを取ったそうです。そこで得られた結果からアート作品を改良し、北海道内の全359病院に効果を示すエビデンスを添えて再度提案したところ、「ぜひやりたい」と回答した病院が7病院に増えたそうです。「実際の設置状況と効果についての研究成果(エビデンス)の提示が影響した可能性が高い」と報告されています。

名古屋市立大学でも応用できそうな実践報告で、これからの企画の参考にしたいと思います。

具体的な病気や症状に対する教材制作では、エビデンスを明らかにしやすい

筑波大学でメディアアートなどを研究されている村上先生の報告で「生活習慣病予防教材の開発に関わる芸術と医療の連携について」がありました。こちらは医療福祉空間にアートを導入するといった事例ではありませんが、エビデンスを明らかにするという話を具体的に聞かせてもらいました。また医療側と芸術側の連携プロジェクトで相互が有効に機能するためにはどのようなことが大事であるか、聞くことができました。

この事例のように、生活習慣病予防のためのデザイン、アートといった、目的がはっきりした創作物であれば、必要なエビデンスはその病気において改善があったかということです。医療関係者と協力すれば数値的な効果がはっきりと取得できることになります。医療福祉空間にアートを導入する活動でも参考になりそうです。