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連続講座 第2回「『病院がプラネタリウム』の実践と展開」開催

2022年度の連続講座は、ヘルスケア分野のデジタルアート事例に焦点を当てて学んでいます。

第2回は、星つむぎの村の高橋さんの実践をおうかがいしました。星空体験をされたお子さんやご家族の方々のエピソードには胸を打たれるものがあり、講義の最後には特別にプラネタリウム上映をしてくださいました。星空の壮大さや美しさ、豊かな物語を感じることができました。

※本レポート記事では、講義の流れに沿って、一通り発表を追えるようにまとめています


1.第2回の概要



日時:10月7日(金)19時~21時
場所:オンライン(zoom)
講師:高橋 真理子(星つむぎの村


2.高橋真理子さんのプロフィール、団体設立のきっかけ


●プラネタリウムは総合芸術



星野道夫に大きな影響を受け、大学ではオーロラを研究されていた高橋さん。研究者の道へは進まず、科学と社会をつなぐ仕事を目ざし、山梨県立科学館に勤めました。そこで天文(プラネタリウム)担当として宇宙や星に携わるうち、「プラネタリウムは総合芸術だ」と思うように。


●「病院がプラネタリウム」の活動の始まり


目の見えない人々と活動する機会があった際、「本物の星空を見られない人にこそ、プラネタリウムは意味があるのではないか」と気づいたといいます。そして、闘病中など科学館に来ることが難しい人々に向けて「星空を届ける仕事がしたい」と、科学館を出て独立。「病院がプラネタリウム」の取り組みを始めます。そして現在の、一般社団法人星つむぎの村へとつながっていきました。


星つむぎの村
「星を介して人と人をつなぎ、ともに幸せを作ろう」をミッションに、プラネタリウム、星空観望会、星や宇宙に関するワークショップなどを展開している団体。


3.「病院がプラネタリウム」の実践と展開



本物の星空を見ることができない人々に、星空を届ける活動をしています。画像にある件数は、病院や施設(団体)などに向けて取り組んだ数。有償スタッフは2名で、ほかには活動に共感してくれている仲間が、全国に200名ほどいらっしゃいます。


●星空は、境界線をなくしてくれる


「同じ星空の下では、患者も家族も医師や看護師もフラットな関係になれます。星空を見上げることに関しては、支援する人、支援される人という境界もなくすことができます。星空はいろいろな境界線をなくすのだと、実践してきて気づくことができました」と高橋さん。

個室での上映であれば、その人の誕生日の星空を映すことがよくあるそうです。プラネタリウムは便利なツールで、何年何月何日の星空というのを、簡単に映し出すことができるのだそうです。どんな人にも誕生日はあり、生まれ星座があり、どんな人の上にも星空が広がっているという、すべての人に共通するものを示すことができます。


星つむぎの村の活動や思いを知ることができる動画(クリックするとYouTube動画が開きます)


●どうやってプラネタリウムを運ぶのか


移動式プラネタリウムや、空気を入れて膨らませるドームがあり、その中に入ってみてもらいます。しかしこうしたドームが入らない場所や、ストレッチャーが必要なためにドームに入れない方々に向けては、天井に直接映し出してみてもらっています。病室や、NICU、プレイルームなどでも、ライブで上映しています。



●ネット配信のプラネタリウム活動


出張プラネタリウムのほか、非接触のフライングプラネタリウム(ネット配信、オンデマンドやライブ、YouTubeを利用したものなど)の取り組みもおこなっています。コロナ禍以降は病院への立ち入りができなくなったため、ほぼすべてがフライングプラネタリウムとなりました。

また、ときには「本物の星を見てみたい」という子どもたちを、拠点としている山梨県北杜市でお迎えする活動や、全国各地とつなぐオンライン星空観察会(ライブ中継)も開催しています。



活動をまとめた動画の視聴もしました。今回は限られた時間のなかで、取り組みの一部のお話をいただいたと思いますが、それでも星空を語ることの魅力、プラネタリウムで星空を疑似体験することの力について、実感することができました。


4.フライングプラネタリウムの上映体験


講義の後半では、zoom上で、オンラインのプラネタリウム体験をおこなってくださいました。講義は夜ですので、部屋の明かりを消してパソコンの画面に集中すると、本当にプラネタリウムにいるようでした。


「今日の夜9時の星空です」と高橋さん。


「毎日、本当はこんな星空が、頭上に広がっているんですね」


「星座が生まれたのは5000年も昔。日本は縄文時代です。そんな昔の人たちが考えたものを脈々と受け継ぎ、今に続いているのですね」


「地上から飛び立って宇宙空間に出たとき、私たちが最初に目にするもの。それはこの地球の姿です。私たちみんな、この地球に住んでいます」


ときに、子どもたちの創作を上映内容に取り込んだり、惑星をボールのように投げるような動きを取り入れたりすることもあるそうです!


上映は、惑星から銀河へと広がり、最後に再び地上へと舞い戻りました。デジタルならではの映像美、音楽との調和、そこへ高橋さんご自身による「語り」が加わることで、デジタルともアナログとも、サイエンスともアートとも区別し難い、特異な世界が生まれていました。


5.受講者の声


星空、プラネタリウムの魅力(総合芸術性)


  • 寝転がって見上げるプラネタリウムでは、肩書も生まれも育ちも障害によるハンデなども、全部飛び越えてただ肩を並べて星を見ることができるのが、とても素敵だと思いました。
  • 「何かをつなぎたい」とおしゃっていたが、私には「つなぐ」というよりも「思い出させる」ように感じた。科学と芸術、人と人、人と宇宙、元々つながっている、同じであることということを思い出させてくれた。
  • 高橋様のライブ語りは、無駄な力が抜けていて、すごい説得力でした。音楽と映像も素晴らしかったです。語りと音楽と映像の3つがとてもうまく融合していて、「ふーん」ではなく「おぉーっ」と、おもわずその世界に入り込んでしまいました。
  • 絵画、彫刻、インスタレーション、演劇、映像表現、デジタルアート、音楽、パフォーマンスと様々な要素があり、確かに総合芸術であると思いました。これはプラネタリウムという手法が科学館の科学からの視点から発達したものであり、芸術側から発達したものでないというのがむしろ面白いなと思いました。
  • サイエンスと人との「つなぎ役」としてのアートを目の当たりにしました。

宇宙のなかで生と死を語る


  • とても印象的だったのは、プラネタリウムを体験して「1年頑張れる」と言っていた少女。本当に1年頑張り、星に帰っていったとのことですが、グリーフケアとしてその後もプラネタリウムを使用されていたことは素晴らしいと思いました。
  • 対談で、「プラネタリウム(夜空)を見ていると、しぜんと生死の話ができるのがすごい」と話されており、たしかにそうだなと感じました。生死の話をタブーに捉える風潮がありますが、疾患の有無に関わらず、このような話ができる環境をつくることは、いろいろな人(とくにターミナルの人)にとって必要で有意義な時間になると考えました。
  • 生死というと、すぐ、宗教の話になることが多いけれど、それを科学の側面だけで伝えきっていた。凄い、新鮮だった。病院で、生死を語ることは、以前よりは良くなっているが今でも避けることが多い、そもそも、子供にはあまり通じない。それを、あっという間に解消してしまった。
  • 子どもたちに、プラネタリウムの中で、「お友達が星になったんだよ」と伝えることを考えついた大人のやさしさにも感動しました。それを受け取った子どもたちも、そのやさしさが分かるときがくるのではと思うと、感慨深かったです。

エピソードベースでの紹介、人あってのアート


  • 実際に参加した方々のエピソードが感動的です。エビデンスより、このようなエピソードベースで広報活動していくことが大事なんだなと思いました。
  • 日々家族のケアに追われる身としては、VTR中のお母さん達の気持ちがわかりすぎて涙が出ました。
  • 星や地球の大自然は、人々の心を癒すことが出来ます。しかし人の心を本当に支えるのは、それを届けたいという「人」だと思います。言葉やイメージに思いを乗せて、心を支える。私自身の気持ちを改めて確認できました。

デジタルの可能性


  • コロナ禍になる以前からフライングプラネタリウム(機材を届けてセルフで楽しむなど)を実践されていたことが、コロナ禍での継続的な実践に繋がったのだと感じ、「デジタルの可能性」を実感しました。

今回の講義でも、講師と鈴木教授との対談がありました。
またグループに分かれたディスカッションタイムもありました。


第2回の開催報告は以上です。このすばらしい取り組みが、多くの場に届くことを願っています。
ご講義をありがとうございました!


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