「ホスピタルアートのある街・堺」連続講演会 12/11の講義を拝聴しました
<開催概要>
堺市と関西大学の地域連携事業
「ホスピタルアートのある街」堺のブランド力向上と堺市民の健康意識向上への貢献
第1回講演会
「フランスにおけるアートを通じたヒーリング アルツハイマー病治療におけるアートの活用」
講師:パリ サント・マリー病院 医師 フロランス・ボンテ Florence BONTE
日時:2020年12月11日(金) 18:00 - 19:30
オンライン(zoom)
関西大学社会安全学部の亀井克之教授が主催されている「堺市と関大の地域連携事業『ホスピタルアートのある街・堺』連続講演会」が、2020年12月から2021年2月まで全7回オンラインで開催されます。
その第1回となる12/11(金)の講義「フランスにおけるアートを通じたヒーリング アルツハイマー病治療におけるアートの活用」を拝聴しました。
ボンテ氏は老年医学の医師でアルツハイマーの初期の人のデイケアをされています。
普段、あまり聞く機会のないフランスの例で、しかも医師として病院のデイケアに携わる実践を伴うお話はとてもとても参考になり、興味深いものでした。
亀井先生、ボンテ先生、通訳の方、すばらしい機会をいただき、ありがとうございました!
以下、彼女の話のメモです。
※フランス語はまったく分からないため通訳者さんに頼りきりの内容です。
「フランスにおけるアートを通じたヒーリング アルツハイマー病治療におけるアートの活用」
〇はじめに
- 認知症でも創作能力はある。創作活動によって周囲のその人への見方が変わる。病気とは異なる視点を得られ、人として見られることができる。
- 選択や決定、感情表現ができることで認知症に伴う鬱や孤独と戦うことができる。
- 2019年11月にはWHOもアートが健康によい影響を及ぼすと発表している。900の世界の論文を調査しそのような結果を導き出した。
〇脳との関係
- 顔を見ることによって脳の紡錘状回が刺激され、他の動きを見ることで脳の左後ろの分野を刺激される。音やアートによって心地よさやご褒美をもらうような気持になる。
- 脳のどの部分がアートを見ることによって刺激されるかについて書かれた論文もある(Semir Zeki 1970)
- 美術館に行って本物の作品を見ると、コピーを見るより感動することが分かっている。
- Blood&Zatorre(2001 PNAS)というチームが音楽の脳への影響についての研究をしており、心地よい音楽を聴くとやる気がでることなどが分かっている。
〇アートセラピーについて
- アートセラピーはフランスの高齢者施設やデイケアで導入され、セラピストは専門教育を受けているが、それにも関わらず治療関係者とはみられていないのは残念なことだ。
- 医療関係者やフランスの厚生省もまだアートセラピーをまだそれほど重視していないのも残念なことだ。
- アートセラピーの定義があり、アートの創造手法をセラピーに利用したケアの実践である。
- 精神的なケアであり、内面の表現方法である。最終的なアウトプットの質にはこだわらない。
- アートを使うことでアートセラピストは個々の患者さんの能力をひきだし、それによって患者さんのセルフイメージを良くし、痛みや苦しみを和らげる効果もある。
- フランスにおけるセラピスト資格は、公的なものと民間のものと両方あり、2年で理論と現場実習とを行う。
〇病院のデイケアにおける「記憶と脆弱性」というアトリエについて
<プロセス例>
1.受付後ゆったりしてもらう 10分
2.何をするかの説明 5分
3.創作(アートセラピーがサポート)60分
4.自分の作品紹介(同時にセラピストが作品を分析)10分
5.まとめ 10分
→患者さん一人ひとりが自分を大切にでき、喜びを感じ、自立ができるようにする時間
- チームのメンバーは、言語聴覚士、作業療法士、アートセラピスト、運動療法士、医師、看護師、介護士、心理学者などがいる。
- 患者さんと面談しケアの目標などを定めたプロジェクトを立ち上げるが、その際、多分野のスタッフの介入を前提としている。
- 1日に16人、年間200人程の患者さんを受け入れている。
- アトリエは1日2回開き、6カ月間継続して受けてもらう。
- アートセラピーと音楽セラピー両方の場合もあるし、どちらかの場合もある。その他に言語や運動のリハビリと組み合わせている。
- 患者さんは1週間に2日通ってもらっている。介護をしている家族の方への教育もしている。
- アトリエでのデイケアは受付後、リハビリの先生と個人面談があり、その後、専門家がケアプロジェクトを考える。
- 音楽セラピーやアートセラピーのほか、リラクゼーションで体を動かしたり、時には映画館に行ってスピーチセラピストと記憶のリハビリをすることもある。
〇美術館を利用したアートセラピー
- 美術館を患者さんと訪れることもあり、ルーブル美術館にも行く。広い美術館だが、特定の場所に高齢者や認知症患者を連れて行き、4-6作品ぐらいを見せる。時には美術館の休館日で他の見学者がいないときに行くこともある。
- 訪問時にテーマを決める。例えば個人の歴史と重ねるために「家族」など。
- 鑑賞時にはイスを用意いただき、作品前に座って、皆でコメントをしていく。
- 美術館に患者さんを連れて行くと、表情が大きく変わる。そして、問題行動と呼ばれるものがでなくなったり、話さない人が話すようになるなどの変化がみられる。
- 鑑賞をした翌週に創作活動をしたりする。鑑賞した作品を取り上げ、それを再度自分なりに描いたり、セラピストの指示に従い作業をする。
- アートセラピーにより、集中力が高まり、より喜びを感じられるようになるほか、行動心理症状がでにくくなったといった改善がみられる。
- 各美術館にアルツハイマー用のプログラムがある。
- 参考文献 Mittelman et al: Meet me at the MOMA
〇アートセラピーによる症状改善の例
ある82歳の男性患者/MMSE(認知症の指標)=13/30、GDS(鬱の指標)=11/30 には、アートセラピーとスピーチセラピーを受けていただいた。
目標は、表現力とセルフイメージのアップ、生活に新たな意味を与えるというもの。
→11回デイケアを実施した結果、言語力や表現力が豊かになった。
→こうしたアートセラピーやリハビリのおかげで、抗うつ剤の投与をなくすことができた。
〇ミュージックセラピーについて
- 普段、発語のない人が音楽に合わせて楽器を使うことで表現ができたり、話さなかった人が話すようになったりする。
- 音の出る楽器などを用いたりして参加してもらう。
- 患者さんの過去の音楽や音との関わりを聞き、それを生かしセラピーをやっていく。
- 自身で音や声を出して演奏する側になる場合もあるし、音楽を聴きリラクゼーションを行う場合もある。
- 音楽の構成要素と患者が生きてきた歴史との緊密な関係に基づいて行い、音楽や音が媒介することでコミュニケーション、表現によって止まっていたものが再び動き出す。
〇アトリエ(アートセラピー等)の成果
- アルツハイマーや認知症はもちろん、精神病や脳梗塞・脳卒中の患者さんにも効果がある。
- 社会、集団生活に復帰できた。
- 自分の考えや感情などを言語化することができるようになった。セラピストはその人の出すサイン、言葉をよくキャッチし、サポートをする。
- 選ぶとか好きなものを表現するといったことを通して、自分に自信を持てるようになり、セルフイメージを高めることができる。
- うつ症状の改善や不安の解消もできた。
- 無気力から脱し、周りからの見方も変わった。・患者さんの心地よさ、生活の質も変わり、周りの家族にもよい影響がある。
- アートセラピーは、専門の教育を受けたセラピストが適切に介在し、ケアを実践する。
- セラピストがいることで、質が確保されている。
- ただ創作活動をするだけではなく、精神心理治療のひとつ。心理症状を緩和する。
- その人が自信を回復させたり、自己肯定感を高めたり、自分を大切にできるよう促す。
〇その他
- コロナ禍でアートや文化に接する機会が足りなくなっているが、アートとケアを結びつけることは+αのプレゼントになる。