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連続講座第5回「医療の質と安全を向上させるアート」

「高めよう!気付き力。極めよう!チーム力」と書かれている。一人で何でもできるのがよい医師、よい看護師という文化を変えようとする取り組み。


2020年8月5日(水)18時半から、zoomにて、連続講座第5回「医療の質と安全を向上させるアート」を開催いたしました。100名程度の方が参加しました。

講師は、山口(中上)悦子先生。大阪市立大学医学部附属病院で医療の質・安全管理部部長をされていらっしゃいます。アートミーツケア学会の理事でもいらっしゃいます。「なぜ医療の質がアートとつながるのか」「医療の質とは何か」「その具体的な取り組みはどんなものか」、そうした話をおうかがいしました。

受講生の感想を借りて、以下でご紹介します。

講義のポイント

医療とアートにはどのような親和性があるのか

  • アートと医療は、何もないところに道を作って進んでいくというところでは同じだ、というところが非常にうまい考え方だと思った。
  • 「これってアートなんだろうか?」という疑問もわいたが、山口先生が、「知らない未知の分野に一歩踏み出す。いつもと違うところから見る。これは、アート。」という言葉を聞いて、なるほどと思った。
  • 安全性の向上には、知識、経験に頼らず、知らないことを受け入れることが重要で、それはまさにアートであるということ、人とのつながりにかかっているということ。
  • 従来のやり方にしがみつこうとする人間の習性に揺さぶりをかけないと変化できないというのは何にでも通じることだと思うので、日々の仕事でも変わっていくための仕組みや仕掛けを取り入れたい。
  • 病院において、「理解はしているけど、受け入れたくない」というような状況がたくさんあり、その状況を改善するためのアプローチの一つとして、アートが有効。
  • 専門性が高くなることによる「いつもと同じ」という心理が事故に繋がる、そこに日常を違う視点で見るアーティストの存在に意味がある。

医療の質について

  • 職員さんの質の向上が患者さんのためになる。
  • 病院の質と安全が、TOYOTAが基準になっていること。
  • 安全文化を実施すること、それには戦略、戦術をもうけている。医療現場の組織づくりが大切。

ヘルスケアアートの定義を広げる

  • 病院の組織や医療者への研修に使うという発想は、ヘルスケアアートという言葉の定義をより広げるものだと思った。
  • 病院内で医療安全を周知、教育するためのアニメやゲームが「アート」であることが意外だった。
  • 今までは患者さんがターゲットのホスピタルアートが多かったが、今回は病院全体の意識改革をアートの力でおこなっていた。
  • アートという観点からは使いやすさや居心地の良さに視点がいくことが多い中、注意喚起やコミュニケーションの向上という面もアートやデザインが関与できる。
  • 治療の場で、転倒による更なる治療が必要とは由々しき事態だが、それを環境改善や整備でアートを使うのではなく、人の教育にアートを取り入れて防止するというのは、思いもよらなかった。
  • 職員、患者さん、いずれにしてもかなりの大人数に対して、何かを効果的に伝えるのは難しいと日々思っており、伝達手段としてのアートの取り入れ方を学んだ。

転倒防止策、医療者の孤独を救う、そのためのメディアアート

  • 医療安全とメディアアートが親和性が高い。
  • メディアアートは活用しやすく、応用の幅が広い。
  • 「アニメーションを使っての入院患者への転倒転落防止の注意喚起」、「医療従事者向けに医療事故の事例を説明」といった例から、アニメーションが医療現場において、研修や啓発に有効な手段であることがわかった。また、「ゲームや即興劇を医療従事者の研修に用いる」など、医療の質と安全を向上させるために、広い意味でのアートが用いられている。
  • アニメーションを取り入れたきっかけが、「看護師さんが苦労している転倒防止をなんとかできないか」という医療現場の切実な問題からだった。
  • 若い医師、看護師が悩みを抱えて解決できず、悩んでいることが、アニメーションを見ることにより自分だけではなく誰にでもあることとして客観的に思えるようになり、上級医師、先輩看護師に相談できる雰囲気になるとよい。
  • 症例のゲームをすることにより、あまり興味のなかった症例のマニュアルを勉強したくなるという動機づけになる。
  • 65歳以上の方は、アニメーションにあまり慣れていないのか、過激な描写は、脅しに感じることがあるようなので注意する必要がある。
  • インプロ(即興演劇/インプロヴィゼーション)が、リーダーシップ、コミュニケーション、チームワークの養成に役立つ。
  • 大学の研究として美大と医大、多方面からの参画と、世代や立場も違う人々との関わり、trial and errorによって効果を高めている。
  • 今回の教育研修や啓発目的のアート事例では、介入前後の差とても効果が高いと感じた。文字情報拒否されがち、説明多すぎなど、うまく伝えられない時こそ、こういったアート、メディア転換手法で情報整理することでアートの役割と価値を感じる。

コンテンツの運用にはキーマンが必要

  • 必ず人が介在し、コミュニケーションをとりながらマネジメントしていくキーマンが必要である。
  • 「どんなに良いコンテンツを作っても、それを運用するのは“人”」というお話が、前回までの他の講師の先生方のお話とも共通するものがあり印象的だった。
  • 「未知」に対応するためには、いくらいいコンテンツがあっても最後は人と人との繋がりが安全に向けても必要。
  • 山口先生が終始一貫して伝えてくださった「すべては人」、「人ありきで」というポイントが印象に残った。

対談コーナーより


上の見出しにも「ヘルスケアアートの定義を広げる」と書いたように、今回のお話はこれまでの環境整備や患者さんの心理的な癒しのためのアートではなく、質の高い医療を提供するために、何より安全な医療行為ができるために、アートやデザインを応用するというお話でした。そのため聞きながら戸惑った受講生も少なくなかったようですが、感想から、皆さんそれぞれの立場で学びを得ていただけたようです。私たち事務局も目からうろこのお話でした。

山口先生、具体的なアニメーションなどを見せていただき、講義をありがとうございました!

次回は、また私たちの事業では初めてお伺いする、メンタルヘルスにおけるアートのお話です。


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