連続講座第4回「医療空間におけるアートプロデュース」
2020年7月29日(水)18時半から、zoomにて、連続講座第4回「医療空間におけるアートプロデュース」を開催いたしました。100名以上の方が参加しました。
講師は、株式会社タウンアート、吉田祐美さんです。今回の連続講座で何度となく話題にのぼっているアートコーディネートの役割を担う会社で、50ほどのアート導入の経験をされていらっしゃいます。多くの実例を紹介いただきながら、目的や用途によって多彩なアートが存在しうること、設置した空間でどのような効果や影響があるのか等を教えていただきました。
具体的な内容について、受講生の感想をお借りして、以下でご紹介します。
講義のポイント
総合的なマネジメント力
- アートコーディネーターは、調整役として皆が最大限のパフォーマンスができるようサポートをするバランス感覚が必要な仕事。
- アートをプロデュースというよりマネジメント力の大切さを理解した。
- アートコーディネーターは、アートを手段としたデザイナーであり現場監督である。特にアート設置のタイミングをはかるために工事の工程管理をしたり、フォローアップまでなさっているとのお話、総合的なマネジメント能力が必要だと分かった。
- アートコーディネーターは事業者とアーティストと設計者の真ん中で、ニュートラルな立場でプランをデザインする人。
- 作るまでのコンセプトづくりや、病院や、建築家、アーティストの真ん中に立って費用や納期まで調整、スケジューリングする立場であることを改めて知った。
コンセプト作成にまず注力する
- 病院のコンセプト作成に注力すること、ローカリズムを表現することで、全国の病院で多彩なホスピタルアートを展開していることが分かった。
- はじめに丁寧にコンセプトを共有することにより、アートが病院のアイデンティティを表現し、その結果、地域に根付き愛されていく。
- 定型にはめるのではなく、全てゼロからその病院だけのコンセプトを作り出す。
- 吉田さんの仕事の一番大きな部分は、病院におられる方々への思いを馳せて、その方々の目線を把握しながらコンセプトをつくること。内容をつめてから、作家や作品を具体的に考えてゆく(2案提案する場合もある)といったプロセスがわかった。
アートの定着、アートの効果の持続のために
- アートの効果や役割が継続されるための工夫も重要。
- 働いている人たちに浸透していくことで、徐々に定着していく。
- 小児科の例のように、導入したアートが医療従事者によって発展してゆく場合がある。10年ほど経過しても、患者さんからの反応を聞ける場合もある。
- アートを浸透させるために埼玉小児医療センターで600人の看護師に缶バッジと手紙(アートの小冊子?)を配布したことは素晴らしい。病院スタッフに理解され、風土として根付くことでアートは、さらに活きてくる。
医療空間におけるアートとは、デザインとは
- アート自体は自由なものではあるが、医療空間では、アートが医療現場の理念に沿ったものであること、アートは、患者をはじめ付き添いの家族や医療現場で働く様々な立場の人や地域の人のことも考え展開していくことが大切。
- 地元の文化や風景をモチーフにしたり、患者・家族・スタッフ巻き込み型のプロジェクトで、アートを通して患者や地域の人、スタッフから愛される病院、自分とつながりのある病院にしていくという仕掛けづくりに大変興味をもった。
- リサーチが重要。このような目的があるからこのようなデザインに、という流れがあるからこそホスピタルアートは効果があって、何年先も残り続けていく。
- 病院の長い廊下も壁面に鳥を飛ぶ様子を表現したり、歩く目標となるようにベンチを設置することで利用者の気持ちに寄り添うことができる。
- 医療空間のアートプロデュースは、空間からスタートするのではなく、まず人から。
- 「こうあるべき」が多い病院建築で、アーティストが関わると、「ほしかったもの」が見えてくることがある。
利用者の立場や心理を考え、ていねいにアーティストや作品を選ぶ様子や(もともと社会福祉を学ばれていたそうです)、導入での具体的な調整、スケジュール管理のお話など、盛りだくさんの学びでした。医療空間におけるアートがその役割を発揮するためには、アートコーディネーターの担う仕事はとても大きいといえます。
吉田さん、ご講義をありがとうございました!
連続講座は今回で折り返し地点。講師の方のお話は残り3回となり、第8回は受講生の方からの発表を予定しています。引き続きよろしくお願いいたします。