NEWS 事務局からのお知らせ

連続講座第2回オンライン交流会

2020年7月15日(水)18時半から、zoomにて、連続講座第2回オンライン交流会「あなたの思うヘルスケアアート」を開催いたしました。

受講生の皆さんが、仕事やボランティア等で関わった、あるいは利用者として体験した、ヘルスケアアートの事例を紹介​いただき、対話をするという内容です。この回は任意参加のため受講された方は通常より少ないですが、それでも70名以上の方が参加くださいました。

当日の流れ

当初は、これほど多くの方が参加する交流会を予想していなかったため、全員に1つ、ヘルスケアアートの事例を話していただこうと考えていました。しかし参加者が多く、それが難しくなったため、事前にヘルスケアアートの事例を送っていただくよう呼びかけました。

事前課題には、約20名の方にご協力いただきました。提出くださった皆様、ありがとうございました。発表時間は50分を予定していたため、運営でとくに興味深い事例を選択し、順に声をかけました。限られた時間のため、お送りいただいたすべての事例をご紹介できなかったのは申し訳ありませんでした。
 ※後日、共有の可否を確認のうえ、テキストデータと写真を受講生限定公開しています。

第2回のプログラム

  1. 鈴木先生挨拶、事務局より概要説明
  2. ヘルスケアアートの事例を1人2-3分で紹介(受講生から限定最大15名程に呼びかける)
  3. 小休憩
  4. 5人程のグループに分かれ、グループ内で事例紹介やご自身の思うヘルスケアアートについて対話
  5. 数名の方から感想・コメントを全体に発表
  6. 鈴木先生より総括、事務局より案内

受講生の発表事例

この記事では、発表いただいた7事例について、寺井からレポートさせていただきました。
(事前のお声かけは一切なしで、いきなり指名されるという展開です!)

(1)佐野さん…賛育会病院の事例


撮影スポットとしてデザインされたスペース

周産期母子医療センターである東京墨田区の賛育会病院の2019年秋の事例を、佐野さんにお話いただきました。渡り廊下入り口の休憩スペース(面会コーナー)をほっとできる空間に変えるとともに、視覚的に美しいフォトジェニックな場所を提供することにより、出産や退院記念の写真撮影など家族の思い出づくりに寄与することをねらった試みです。

佐野さんが病院に提案されたホスピタルアートプロジェクトだったため、リーダーは佐野さんが務められました。アートの現場には、100名を超える病院スタッフ・職員の方々や、また入院されている患者さんなども参加されたそうです。

アート導入の思いはありながらも経験がなかったため、NPO法人アーツプロジェクトの森合音さんにメッセージを送り、協力を得て進められました。佐野さんはこの成果が認められ、「賛育会病院でもアートディレクターを置こう!」ということになり、現在は病院内アートディレクターの立場で在籍、活躍されているそうです。

【参考URL】

・賛育会病院 広報誌のページ
https://www.san-ikukai.or.jp/sumida/hospital/about/koho/123/2019-0416-1357-10.html
2019年 No. 237(2019年10月1日)1.2のさんいくかい第237号(PDF)
「~さんいくホスピタルアート 始めました~みんなが『ほっ』とできる病院に」

(2)小中さん…ゴブリン博士の長年のアーティスト活動


コロナ禍で小児病棟活動ができなくなったため、「ゴブリンレシピ」を記した画像をネット上にて公開中

茨城を拠点に活動されているアーティストの小中さん。自らをゴブリン博士と名のり、妖精「ゴブリン」という作品を人々と共につくる活動をされています。(おそらく想定内と思いますが、受講生から「ゴブリンとは何ですか」という質問はありました)

その原点は2009年、筑波大学附属病院アートステーションSOHにおける滞在制作で、院内で交流しながら多くのゴブリンを制作しました。

その後マスキングテープを使った即興的な壁画制作、参加型で取り組んでもらえるようゴブリン制作の方法を考案するなどに取り組み、2014年からは「(だいたい)毎週 “ゴブリンさん” が来る、小児病棟」という活動を継続しています。週にだいたい一度、一時間半程度で、5名程度の入院している子どもとその家族が、さまざまなテーマのゴブリンづくりに参加するそうです。ゴブリンさん来るかな?と子どもたちのモチベーションになったり、ご家族も一緒にその場を楽しんだりと、大事な活動になっていると話してくださいました。

現在はコロナ禍により病棟訪問は休止中のため、「ゴブリンレシピ」という作り方を描いた画像を公開するという新たな展開に挑戦されています。

【参考URL】

・ゴブリンレシピ1(自由にダウンロードできます)
https://drive.google.com/file/d/1U-zwPWMr7-cA2nBIFsORqQcog_OJfwr1/view?usp=sharing
・ゴブリンレシピ2(自由にダウンロードできます)
https://drive.google.com/file/d/1mR1DP-TDiFYY74ujhQVMdhFlKHHJpakh/view?usp=sharing

(3)田中さん…徳島の複数の医療機関にてマスキングテープアートの事例


徳島市民病院の階段踊り場。マスキングテープだけでこれだけの絵が描けることに驚きます

徳島大学の学生さんと一緒にマスキングテープを使った壁画に取り組んでいる、徳島大学の教員でいらっしゃる田中さんの発表です。徳島の複数の医療機関に制作しています。いずれも既存の病院の大規模な施工等はできない場所で、貼るのも簡単、剥がすのも簡単、扱いやすく手が汚れない、においもなく衛生的、比較的安価というマスキングテープのメリットに、「やってみて気づいた」ということです。

これまでに階段利用促進のための階段アート、緩和ケア病棟等の季節装飾、リハビリ促進のための廊下の装飾等を制作してこられています。施設によっては職員の方と協働で制作したり、患者さん・入所者さんにも制作を体験してもらったりしているそうです。

いずれも患者さんや職員の方に楽しみや安らぎを与える効果が生まれていますが、最近ではリハビリ(作業療法)や障がい児の機能訓練に利用されるケースもあり、新たな展開を構想中。

耐久性について質問があり、田中さんによると「壁の質や湿度などにもよるかと思います。お見せした徳島市民病院の階段壁面は1年前に制作しましたが、まったく剥がれもありません」とのことでした。

【参考URL】

・FBページ
https://www.facebook.com/tokudaithal/
・Instagram
https://www.instagram.com/tokudaithal/
・アートミーツケア学会 オンラインジャーナル第11号
[実践報告]健康と癒しの両立を目指して ―徳島大学病院におけるマスキングテープアートの試み(2018 年度)―

(4)松村さん…名大医学部附属病院、検査室の装飾の事例


検査室の完成写真

名古屋大学医学部附属病院のプロジェクトを、松村さんに発表いただきました。小児がんのお子さんなどが多い病院ですが、CTやMRI室は無機質な空間が広がり、怖がって泣き出してしまう子も多いそうです。そんな子どもたちの不安を少しでも取り除く装飾を行おうと取り組まれた昨年の事例です。クラウドファンディングの支援金によって施工されました。(下記に参考URLとして掲載)

CT、MRI、がんを見つけるPET-CTも合わせ、検査室3部屋を装飾。松村さんはアートコーディネーターとして携わり、装飾のコンセプト立案、職人さんへの指示、工事監理、病院スタッフとの打合せ等をしたそうです。機器への装飾は三次曲線への貼り付けなど難易度の高いもので、シートを貼るための特殊な技術を持つ職人さんもいらっしゃったとのこと。

装飾を施したあとは、子どもたちが泣かずに検査室に足を運ぶことができるようになり、装飾されていない検査室に入るときは「はずれた」というくらいに、不安を取り除くことができたとのことです。

【参考URL】

・小さな体に寄り添い守る。最前線で闘う小児医療の現場に光を- Readyfor
https://readyfor.jp/projects/nagoya_u_hospital

(5)川西さん…日本生命病院、染色によるアート企画の事例


病院での展示風景

ひといろプロジェクトの川西さんの発表事例は、伝統的な技法で、希少な材料を用いて染色を行う、参加型のホスピタルアートで、2019年に大阪市西区の日本生命病院で行われました。既存の大型絵画や、病院のキーカラー緑との調和をとりつつ、花や虫等の天然物を素材に染色に取り組みました。

制作工程では、患者さんやそのご家族、医療従事者や院内ボランティアさんなどが参加するワークショップ形式で、本格的な染色に挑戦。「素材や媒染の違いによる多種の色見本の中から好きな色を選ぶ」「色が変わる様子を参加者同士が一緒に楽しむ」「仕上がった作品の中で、パーツとなった自分の染色を探す」という一つひとつの行動に大きな意味がありそうです。

年に一度開催する「ホスピタルアートinギャラリー」という企画展のお話もありました。医療でのアートの必要性やその意義を、病院側だけでなくアーティストなどさまざまな立場の方にも感じてもらうため、ベッドを置いて病室にしつらえた空間で展示するそうです。今回の染色によるアート企画も、病院の方々の参加を得た合作と、作家の作品を、共にギャラリーで一般の方々に公開したあと、病院に設置されたとのことでした。

【参考URL】

・ひといろプロジェクトホームページ
https://www.hito-iro.com/
・ひといろプロジェクトFBページ
https://www.facebook.com/hitoiro1116

(6)笹嶋さん…小牧市民病院の事例


アートワークを担当されたICAのニュースレター。参考URLからダウンロード可能

設計会社に勤める立場でホスピタルアートに関わっている笹嶋さんからの発表は、2019年に新病院の建設が完了した小牧市民病院の事例でした。

アートコーディネータ―は、今回はICA(有限会社インターカルチャーアート)に依頼されたとのこと。そのニュースペーパーを提示しながら、発表を聞きました。

建物コンセプトは「ヒーリングシアター」。小牧にちなんだアートを館内に展開しており、小牧山、小牧の桜、市のシンボルツリー(タブノキ)、市の花(つつじ)、小牧空港、輪くぐり、焼き物などをさまざまなアート、グラフィックのモチーフや素材に取り入れています。あえてしっとりと心を落ち着かせるアート空間がある一方、小児病棟はマリメッコのような原色を用いたにぎやかな空間になっています。

また、照明デザインや、朝と夕方で変化する日差しも取り入れて変化を生じさせる空間づくりは、建築家の関わるホスピタルアートならではと言えそうです。

【参考URL】

・アートワークを担当したICAのホームページ
http://intercultureart.com/expertise28.html

(7)柳沢さん…済生会横浜市東部病院


浴室の様子。制作にあたり皆で浴槽に寝て見える位置を体感・確認したそうです

生け花に携わり、生け花を介して病院と関わってこられた柳沢さんからの発表は、済生会横浜市東部病院の重症身体障害児(者)施設サルビア内の浴室でした。

病院から、「重症身体障害者の方が介護を受け、寝ながら機械浴をする浴室が、無味乾燥で天井も壁もねずみ色で寒々しいところなので、なんとかできないだろうか」という相談があり、取り組んだそうです。裸になる利用者さんの恐怖心や苦痛を少しでも和らげるため、木版画家に依頼をし、寝そべった目線の先の壁上部と天井にかけて、明るい大きな、豊かな感じのする作品を描いてもらいました。

浴室という場所の特性上、仕上げは熱と水に対し劣化しないよう防水加工を施しています。

【参考URL】

・サルビアのご案内(特殊浴室の様子が写真で載っています)
https://www.tobu.saiseikai.or.jp/salvia/

受講生の感想

当日発表を聞いた受講生の感想を、ランダムに下記にご紹介します。

◆参加型、滞在型、巻き込むこと、プロセス

  • 参加型アートがヘルスケアアートにとって重要だと改めて認識した。
  • 参加型にすることで医療従事者、患者さん、アーテイスト、アートディレクター皆さんが一体となり楽しんでいることが印象に残った。
  • スタッフが参加することで、与えられるものではなく、自ら作り上げる手作りが、素晴らしい。アートはプロセスが重要であることを改めて感じた。
  • ヘルスケアアートの展開として、「滞在制作」「参加型」といった方法によって患者さん・ご家族、医療スタッフがインボルブされていくプロセスがわかり、とても印象に残った。空間軸に時間軸が加わることで、一層の膨らみがうまれる。
  • どのアートプロジェクトも人と人が集うことで、アートが生き物になり、環境となり育っていくんだと感じた。

◆モチーフ、素材の発見

  • マスキングテープやコブリン博士の簡単だけど誰でも「ついやってみたくなる」ようなモチーフのユニークさは素晴らしい。
  • マスキングテープ、布、陶器といった素材が面白い。特に布は揺らぎがあって素敵な素材だと思った。
  • マスキングテープでの制作は、芸術性もありながら、高齢者・障がい者・子供など、誰でも簡単にできるのが良い。

◆資金調達、アートディレクター、予算規模の違い

  • アートディレクターが様々な状況から生まれていることに驚いた。
  • 大きな病院の立派なアート導入は圧倒的。
  • 資金調達に関してはクラウドファンディングや公的助成金などの手法もあるのだと気づかされた。
  • 新規建築の病院はフルコースにアートの導入ができ、小牧市民病院のように地域性のあふれる個性をもった病院は地元にとっても良い効果がある。
  • やや大きい病院の取り組みが多かったようなので、クリニックや介護施設など、小さい規模の取り組みも聞いてみたかった。
  • ヘルスケアの現場のアートコーディネーターは非常勤という形態が多いように感じたが、CW+のように常勤職員としてディレクターが勤務できるには、ヘルスケアアートの重要性やアートへの理解が日本でももっと認識されていかないと難しいのかなと感じる。
  • 予算に関わらず、「無機質なスペースを温かみのあるものに変えたい」という想いが共通で、この基本項目がないと遂行できないプロジェクトだと感じた。

◆熱意、活動の分類、立場の違い、そのほか

  • みなさんの行動力が素晴らしい。
  • コロナ禍での取組として「レシピ」を公開していることが印象的。
  • 多くの方々が熱意を持ってヘルスケアアートに取組んでいらっしゃるのを拝見し、率直に嬉しいと思った。
  • 施工系の活動と手づくり系の活動に分けることができそう。立場から語り口が異なることも感じた。
  • あらためて自分の活動のオリジナリティや、課題や特徴について客観的に見直すことができる良い機会になった。
  • 数量的なエビデンスだけでなく、絶対的な効果があることを実感した。

今後、オンラインの環境を生かし、Facebookグループでの交流も検討中です。また当事業としては「ヘルスケアアートの事例紹介」活動を重要視しており、今後もそうした施策に取り組む予定です。連続講座第8回も受講生に発表をお願いします。ご参加をお待ちしています。(寺井)


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