2020ヘルスケア・アートマネジメント連続講座 第4回

医療空間におけるアートプロデュース

株式会社タウンアート 取締役
吉田 祐美

もくじ

本記事は、2020年7月29日オンラインで開催された「2020ヘルスケア・アートマネジメント連続講座 第4回」のレポートです。

こんにちは、タウンアートの吉田です。まず自己紹介を簡単にしますと、私は最初、大学で社会福祉を専攻し、メディカルソーシャルワーカーになろうと勉強していました。ただ縁があって、公共空間にベンチなどを設置する会社に就職して、パブリックアート事業の部署に配属になった流れから、このホスピタルアートに出会いました。パブリックアートという美術館やギャラリーの外で多くの人たちが接する場所にアートを入れていくプロデュースをする際、私は社会福祉を学んだこともあって、何か困っている方にアートの力を提供することができないかと漠然と考えていて、そのときにホスピタルアートの新聞記事を読んで、これだと。今では30年間パブリックアートのプロデュースをし、病院のホスピタルアートのコーディネートも45~50件病院のプロジェクトに携わってきているので、その経験を皆さんにお話できたらと思います。



医療環境の充実をベースに、アートワークの効用をプラスする



私たちがコーディネートして医療空間のアートワークを考えるとき、患者さんのためを考えることは当然ですが、病院が医療の提供をメインとする場所であることを忘れてはいけないと思っています。医療環境が充実することをベースに、アートワークが何かプラスアルファを作っていくためにどうしたらいいかを常に考えています。
そこの中では環境空間を考えることで、利用者の満足度を高め、患者さんたちに安心感を与え、さらには働いている方のモチベーションや誇りを高めるといった良い循環ができる。そういうところにアートワークがどう寄与していけるかを意識しながら検討しています。



ホスピタルアートに求められることは、心地よい環境づくりや、患者さんやご家族の方の気持ちをやわらげること。そして空間の中でアートワークをうまく使い、場を特徴化し行き先を分かりやすくすることで患者さんの不安を軽減させること。そして何よりも人間主体であるということをアートの中に込めていく環境作りが大切だと考えています。
基本的にホスピタルアートが果たすべき役割は、信頼を作り出す、和みややすらぎを作る、さらには活力や励ましという元気にさせる力も持っていると私は信じていますし、そういったことを役割として大事にしながら計画や検討を進めています。

もうちょっとホスピタルアートの効用を細かく説明すると、次のような項目があげられると思います。

ホスピタルアートの効用

  • 患者を暗い気持ちにさせない。気持ちをやわらげる。落ち着かせる。
  • 家族の気持ちをやわらげる
  • 気持ちをそらす(病気のことばかり考えさせない)
  • 患者をはげます
  • 普通の生活に戻すような日常的な環境の提供
  • 病院からのメッセージ・理念や姿勢・細やかな配慮を利用者へ伝える
  • ローカリズム(地域性)の表現(親しみやすさの演出・地域病院としての地域との連携)
  • 働くスタッフのリフレッシュ・豊かな労働環境の創出
  • 快適性を備えた病院のイメージづくり
  • 地域や施設と人をつなぐ、コミュニケーションの創出

ローカリズムの部分を補足すると、日常の風景や馴れ親しんでいるものが周りにあると安心感や親しみを生みますし、地域病院として地域の方と連携することで広がりを持てるという意識もあります。快適で気持ちのいい空間では何だか元気になる、と皆さんも感じていらっしゃると思いますが、快適性を提供することで、地域の人たちとつなぐコミュニケーションツールにもなると。こうしたことを意識しながらアート計画をしています。


アートの力、「安らぎ」と「励まし」を医療空間に反映させていく


アートの力について、次のように整理してみました。

アートの力

「安らぎ」と「励まし」

  • アートの持つ自由な発想が楽しい気分にさせたり、 気づきをもたらせるきっかけをつくる等 生きる「励まし」となる
  • 気持ちを落ち着かせ、心に安らぎをあたえる
  • 過去の経験を想起させ、人生の継続を示唆する
  • 人間のイメージする力を発揮する場を提供し、人間の可能性を高める(作品と対峙し、自己の再確立をするきっかけをつくる

生きる励ましや安らぎをあたえたり、それから過去の経験、昔こうだったなとか、お母さんとの思い出とかを想起させて、またこれから頑張っていこうと、先への継続を感じさせるような力も持っていると思います。そして人間のイメージするという力で、可能性を高めてあげる。作品と対峙することで、自分を立ち直らせる方に向かわせてあげる。そんなアートの力を医療空間の中に反映させていくことを大事に考えています。



その中では、患者さんやスタッフの皆さんにアートを感じてもらうことが何より大事で、そこで院内の場所の機能をきちっと読みとって、感じてもらえるような場所にアートを展開することが大切だと思っていて、そういったことをいつもすごく大事にして計画してきました。


事例1:気持ちをやわらげ、落ち着かせる


では実際に事例をお見せしながら、お話します。



これは公立昭和病院の外来待合にある作品です。外から光が入ってきてガラスの作品にあたるとガラスの影が白い壁に落ちるのですけど、太陽の動きとともにゆっくりと影が動き、空間の時間の流れみたいなものをこのアートを通して感じていただく抽象的な作品です。光と相まって優しい空間を演出する、何かゆったりとした気持ちになる。この病院のスタッフの方から、あのアートを眺めていると気が休まるんだ、とわざわざ伝えに来てくれた人がいたと、作品を納めて10年ぐらい経ってから聞いたのですけど、とても嬉しかったです。



これらも待合空間やプレイルームにアートワークを展開しているのですが、右下のさいたま赤十字病院の壁のアートワークは、実は医療ガスを隠しています。医療ガスはステンレスのピカピカした銀色の装置で、空間にあの医療的なものがあるとちょっと緊張感を生むと思うのですが、それをアートで隠しつつ穏やかな雰囲気にしています。ただ医療ガスを使うときにすぐ使えないと意味がないので、簡易に外せるようにしてあって、その方法を職員の人たちにきちっとオリエンテーションもして納品をしました。日常を柔らかくしつつ緊急事態とうまくつなげていけるようにと考えてみました。



これは、病室の中、自分のエリアに1個でも豊かなものが飾ってあるとほっとしますし、そこに豊かな時間も流れてくると思い、各ベッドにアートワークを展開した事例です。これらも地域の方々にとっては馴染みのある植物などのレリーフを置いて、診察から帰ってきたときにふっとそれが迎えてくれるような空間作りをして、気持ちをやわらげるきっかけ作りをさせていただいた事例です。


事例2:家族の気持ちをやわらげる



それから、家族の気持ちをやわらげるアートを紹介します。これは小児の医療センターで、ドクターや看護師と何回も打ち合わせをしました。外来の小児科は必ず親が子どもを連れてきますので、お母さんたちを癒してあげることが大切じゃないかと、病院側のご意見から出てきました。ですので、大人もリラックスできるように色味を抑えつつ、全体としては柔らかい環境にしました。さらに子どもたちが待ち時間に飽きないように、子ども目線のところにアートを展開する配慮をしています。



こちらのように、ご家族が待つデイルームや、山口大学の病院ではエレベーターホールにアートを展開しました。絵に入り込みやすいように詩を加え、物語があることで、エレベーターを待つ間に少しでも豊かな時間を差し上げたいと。さらに、病院に行くとどうしても下を向きがちですけど、少し上を向いてほしい、大きく深呼吸して欲しいという思いがあって、ちょっと目線より高いところに配置しています。少し見上げることで、


事例3:気持ちをそらす、病気のことばかり考えさせない



これらは、天井に何か描いてある事例で、左はストレッチャーに乗って通過する廊下です。右上は注射に怯えている子どもに看護師さんが、あれチョウチョ飛んでるね、とか話している間に注射が打てるとか、そういう気持ちをそらすきっかけに使ってもらいたいと天井画を展開しています。右下は海外の事例で、病室の天井に子どもが見られる設えをしています。



国立成育医療センターの事例です。子どもは病気だろうが熱があろうが、遊ぶ能力がすごく長けていて、それを少しでも引き出せるようにと設えたアートです。私1日ぐらい立って見ていたのですが、ここには小さな穴が2つぐらい空いていて、子どもたちは何も説明がないないのにその穴を見つけておしゃべりをしたりしていて。私たちの仕掛けたことを子どもたちが発見してくれてあぁ嬉しいなと、子どもの遊ぶ能力はすごいなと、思いました。



それから、昔私も3ヶ月入院して手術受けたことがあって、当時は病室で麻酔を打って意識朦朧で手術室に入るという時代でしたが、今は意識がある状態で手術室に入ることが増えたと聞きます。そうすると入るときの目のやり場としてアートを設えたり、柔らかい環境を作るためにアートを入れて欲しいという病院からの依頼もあったりして、この2点を事例としてあげました。手術室のアプローチゾーンにアートを入れた事例です。



これは、長い廊下にアートを入れた事例です。お年寄りの方とかが、すごく長い廊下を歩いて診察や検査に行くのは大変なので、少しでも気持ちがやわらぐように途中にアートワークが展示してあったり、またはアートワークを目標にあそこまで歩けばという設えをしてその距離を短く感じてもらえるように、アートワークを展開しています。



この神奈川県立がんセンターの例も長い廊下で、なるべくこの鳥と一緒に歩くような楽しげな雰囲気を作ることを意識しました。さらに奥にあるベンチのようなものも実はアートワークで上のところが織物になっています。実は、途中にもこのベンチがあって、介助者があそこまで行って休もうねと声をかけるツールとして使っていただけるようにと設計者と話をして展開した事例です。



こちらは相談室の壁にアートがかかっています。以前私が本で読んだアメリカの事例の中で、お医者さんががんの告知を家族にしたときに、家族の目の前にアートがあってそのアートに支えられるように話を聞いていた、と。医療とは違う力がアートにはあって、それは私ドクターにはできない支えだと思った、と話していました。その意味では空間に何かほっとするものが1つ飾ってあるだけで、人はそれを頼りにするんじゃないでしょうか。私たちは小さな相談室や窓がない部屋にもできるだけアートを設置して、そういった苦しい環境を乗り越えてもらいたいなと思っています。


事例4:絵や物語で患者を励ます



これは実際に励ますことをダイレクトに表現した事例です。絵の横の物語もアーティストが書いていて、産科病棟に来るお母さんたちに向けてつくってもらいました。そして地元でアーティストが展覧会をしたときに、退院された患者さんが、自分がこの絵にすごく励まされたことを実際に伝えたい、とその展覧会場にまで来て、その後も10年以上ずっと交流があるという話を聞きました。いわゆる病院の中での癒しもありますけど、アートに出会うきっかけ作りにもなっているのかなと思います。


事例5:普通の生活にもどすような、日常的な環境の提供



ここは坪庭みたいな空間で、2階の外来の待合は全く空を見上げることができないのですが、このアートはステンレスの鏡面が光を集める作品になっていて、そこに映り込んだ空とか光を少しでも感じてもらえるようにと、アーティストや設計者と考えたものです。



これはリハビリテーションを兼ねたアートワークで、玉石をモザイク状に並べて、この上を歩くと足裏を刺激するというものです。視覚的にも橋を渡るような道筋を作ってあげて、あちらまで渡って歩きましょうと示唆するような展開をさせています。日常的に歩く意識を少しでも高められるように、アートワークが人を動かせないかと、設計者と一緒に空間作りをさせていただいた事例です。



こちらは、退院したときに記念撮影する場所を作ろうということで、座れるようになっています。もちろん利用者の方が散歩をしたり、あと地域の方の散歩道としても使っていただけたりする、広がりのある空間になっています。


事例6:場所や道順を印象づけ、不安を取り除く



先ほど紹介したベンチと同じ病院ですけど、ちょっと外来の入口が分かりづらいので、ランドマークになるようにこのオブジェを設置しました。施設開院時に少しオリエンテーションをさせていただいて、あそこの黄色のオブジェを右に曲がると入り口がありますよ、と道案内で使っていただけるように配置計画をしました。



こちらの公立八鹿病院は入口から外来まで行くのに20メートルぐらいの閉じた空間があって、通っていくときに外来はどこかなと不安にさせる長さですけど、それをこの鳥が視覚的に導いてくれるように展開しています。屋上庭園にもベンチとアートが合体した作品を設置し、コンクリートで無機質になりがちな空間の中で、寄りどころをつくろうと計画した事例です。



それから、人は光に引き寄せられる傾向があることをうまく利用して、突き当たりにあるエレベーターホールや、道の分岐点、長い廊の中で特定の部屋を示したいときなどに、光を使ったアートワークを設置して、遠くから見ても分かるようにしています。これらはアートでもありサインでもあります。



こちらも、スタッフステーションには絵が描いてあって、受付の字が読めないお子さんでもこのアートがあるところにお姉さんたちがいるからね、とアートワークをサインのように使ってもらえるよう展開しています。



それから成育医療研究センターでは、エスカレーターホールの1階2階3階と同じ場所に全然違うアートワークを展開しています。私がこういう仕事をしていることを知らない友人と会ったときに、偶然この病院に自分の子を通わせているという話が出て、じゃあどこでどう過ごしているのかと聞いたところ、「あの3階のアートワークで遊べるところと青い壁があるところに通っているの」と教えてくれました。私に説明するのにアートを使ってくれたんです。実際、意識的にアートで差別化しようと計画したものですが、利用される方が無意識のうちに目印として使ってくれているのだと分かりました。


事例7:地域性や日常に慣れ親しんだ風景を取り込み、親近感をつくりだす



親近感や安心感を生み出すという事例をお話します。左の画像は、病院を建て替えるときに切らなくちゃいけなかった桜の木を、オマージュとしてアーティストが作品の中に取り込んで繋げたアートです。最初に、アートは時間とか人生の継続などを示唆するという話を少ししましたけれども、そういった時間を提供した事例です。
右の高知の画像は最近収めたものです。高地はフラフと呼ばれる大漁旗や子どもの節句の旗が多く作られていて、それは基本的にみんなを応援するものであり、地域の人たちにとってはすごく慣れ親しんだ風景です。さらに言えば、たくさんいらっしゃるその職人さんの方々とも繋がることができるアートワークだったと思っています。



こちらも高知の事例で、もう地元にたった1人しかいない伝統工芸士の方と、若い東京のアーティストの方とがコラボした漆の作品です。高齢の伝統工芸士の方の技術を若い人に繋げるということを、病院を通して協力させていただきました。この病院の事務長は、やはり地域性はとても大切なファクターなので、地域の方も参加いただける場を病院建設の中でできてとてもよかった、とおっしゃってくださっています。
右の公立昭和病院は、アーティストが近くの公園に3日間通って自分がいいと思う風景を絵にして納めた事例です。地域の方々にとって身近な風景をアーティストが切り取ることから、何か感じてもらえたらいいなという思いでやった作品ですね。



この足利赤十字病院のプロジェクトもアーティストがやっぱり近くを歩いて切り取った作品です。私たちにはどこの風景なのか分からないのですが、地元の方には分かって、看護師さんとあそこの風景だよねというやり取りがあったと聞いています。これも気に入ってくださる方がいらっしゃって、このアーティストに絵を描いて欲しいという依頼が病院に来たそうです。地域の人たちにとって、いつも眺めている風景はとても親近感がわきますし、スタッフの方とのコミュニケーションツールにもなっています。



少しにっこりさせるような事例を紹介します。右はアイスクリームの上にさくらんぼが載っているオブジェで、ちょうど粉雪が降ったときだったので、まるで粉砂糖がかかっているような写真になっていますけれど、ちょうど食堂の前に置かれていて、後日食堂のメニューになったと聞いています。
左下の小さなアートは弊社のものではないのですが、MRIに入っていくときの廊下に設置されていたものです。緊張感のある空間の中で、ほんの小さい仕掛けで目のやり場をつくり、そこにワンちゃんが迎えてくれることでちょっとにっこりすると。こう全体にピンクに塗ってあるのもいいけれど、こんな感じのちっちゃな笑いも展開としてはあるねという事例で入れさせていただきました。


事例8:職員のリフレッシュ



それから、スタッフの方が気持ち良くないと患者さんにも最終的に良いサービスが提供できないので、スタッフがリラックスできるような空間作りも大切です。左の画像はスタッフの更衣室の壁にアリスのパーティーの風景が展開されたレリーフです。ここでちょっと看護師の方がおしゃべりをしたり、愚痴を言ったりするときのパーティー感を演出してみようと作家が考えてくれました。右はスタッフの食堂にさっきの漆のレリーフを飾っています。


事例9:病院やスタッフからのメッセージを伝える



病院のメッセージとして、病院の理念などをアートに込めて展開することもとても大切です。右はアメリカの事例で、寄付された方の名前がこのガラスのアートになって掲示されている、感謝の意味も込めたアートワークです。



こうしたアートが皆さんに元気を与えられるように、という病院からのメッセージを、利用者の方を迎えするエントランス空間などに展示をしています。提案する際、私たちはこの画像のような説明を用意するなどして、病院の方に理解していただけることを大事にして進めてきました。



この埼玉県立小児医療センターの画像は、霊安室から霊柩車が出ていくエリアです。スタッフの方々から、患児さんたが亡くなられて出て行くとき、日常業務があるから限られた人しか見送りができないので、廊下に私たちの気持ちを添えるためアーティストと絵を描きたい、というご依頼があり、アーティストと共に絵を描く機会を作りました。


事例10:地域の公共施設としてのコミュニケーションの場づくり



それから「病院なのにアート?!」というテーマでレクチャーをしました。元気な方が病院にきてアートを見学するという内容でしたけども、地域病院の1つの役割として、せっかくいろんな想いが詰まっているアートを多くの方に知っていただく機会も作れるといいのかな、と思っています。


その他には皆さんに知っていただけるようにパンフレットを作ることも大事にしています。右は入院している子どもたちとワークショップをし、そこでできたものが最終的には絵本になったという画像で、そうしてストーリーが何か形になって病院に残っていくことも記念になるのかなと思っています。

以上、今までやってきた事例についてエピソードを添えながらお話ししました。



医療空間におけるアートコーディネーターの役割



この仕事は単に装飾をしているわけではないので、導入目的などをきちっと明確化にして、より皆さんに伝わるようにする必要があります。そういう意味では、地域や病院の特徴もあると思うので、病院の方や関係者の方と話し合っていくことはとても大事ですし、その際に中間地点でコーディネートしていくことも非常に重要だと思います。



設計者や医療スタッフ、それからアーティスト、それぞれの思いはすごく強いので、当事者ではない人が間に入ることによってうまく調和させていき、より効果が大きくなるのではないかと思います。やはりアーティストは作品を作ることに集中する環境も欲しいので、私たちがいろんな方の思いを代わりに聞いて、何が大事なのかをアーティストに伝えます。ときにはマイナスな意見が出ることも当然あって、そういうときも私たちが間に入ることでスムーズに進むこともあります。
海外ではアーティストが職員としている病院もありますし、日本でもアートコーディネーターがいる病院もありますけれども、まだまだ少ない。それぞれの病院の特徴というかオンリーワンを作ってあげることができれば、スタッフの方も私の病院という気持ちを作っていけると思うので、アートコーディネーターがうまく成立していくといいなと、ここ何年もやってきた私の想いです。


設置後にアートを運用していける仕組みが大事


これから今一番私が伝えたいと思っていることを、埼玉県立小児医療センターのプロジェクトを例にお話します。子どもたちにとってお友だちのようなオブジェを作ったり、遊べるようにアートワークの中に動くものを登場させたり、総合的にやったのですが、一番伝えたいのは、この最後のところです。



最後に、アーティストと私たちアートコーディネーターとで缶バッチと手紙を作って600人の看護師さんにプレゼントをしました。やっぱり子どもたちに接している看護師さんたちにアートを知ってもらわないとダメだよね、とアーティストと話をして、私たちの思いを伝えるためにやったんですけど、一年後に行ったときにその缶バッチがいろんな看護師さんたちの胸についていて、この8体のお友だちの名前を皆さんが言えるぐらいになっていました。2年後にはこのスタンプを作りたいですという話が出て、今はユニホームも展開したいという話まで。スタッフの人たちからこれを使ってこういうことをしたいと言ってきてくれることが本当に嬉しいですね。アートが徐々に浸透して定着していくという流れをうまく作れるのは、病院で働いている方たちだと実は思っていて、そうした運用の仕組みが大事なんじゃないかというのが私の一番伝えたいことです。
後日、この埼玉小児の設計者のもとにあるお母様から手紙が来て、お子さんが4年間ここで過ごして亡くなられたそうですけど、アートワークがあってお友だちがいて、本当にお母様も癒され子どもさんにとっても楽しかった時間だったと思いますという内容だったと、設計者が伝えてくれました。私もつい涙が出たのですけれど、そういう効果があると思うと、これからも頑張りたいなと改めて思いました。


対談 吉田 祐美 × 鈴木賢一



鈴木先生:ありがとうございました。日本でもこんなにアートがたくさん取り入れられているのだと驚きました。僕からの質問に入る前に、受講生の方からの質問を2つさせてください。まず吉田さんはもともと大学では福祉を専攻されていて、アートの勉強は卒業後にされたということですか。それとアートコーディネーターとしてアーティストを選ぶときに大切にしていることは何ですか。

吉田さん:そうですね、アートの勉強は仕事とともにというか、私の場合はアーティストに育てられましたね。
そしてアーティスト選びについてはやっぱり、強烈な作品は病気で多少神経もすり減っている状況では引いてしまう場合もあるので、植物など優しい雰囲気を持っている方、生命といったコンセプトで作品を作ってらっしゃる方などを選んでいます。作家探しについては、その地域で活動しているアーティストやコンセプトにあっている方を探しながら、あまり同じ方は使わないで、各地でいろんなアーティストとお仕事させていただいています。

鈴木先生:特定のアーティストとやってるわけではないのですね。新しいプロジェクトが来たときに、この方がいいよねと決定していく過程をもう少し具体的に教えていただけますか。

吉田さん:はい。えっと、仕事としてはアーティストの前にどんなコンセプトでアートを展開するかをいつも一番最初に考えますね。病院や建築設計の方にヒアリングをした上で、コンセプトをまず自分たちで考えます。そして病院や設計の方との打合せを経てコンセプトが決まってきたところで、そこに合うアーティストは誰なのかを考えていく流れになります。例えば、今回は地域の人たちに親しみや安心感を与えるために地域の要素を取り入れていこうとか。

鈴木先生:なるほど。そうするとコンセプトを作ることがアートコーディネーターの最初のもっとも重要な仕事ということですね。

吉田さん:そうですね。そこでは皆さんの想いをヒアリングすることが重要ですし、アートの面白さを伝えていくという私たちの役割も乗ってきますね。

鈴木先生:それはタウンアートさんのアイデンティティーだったりするのでしょうね。アーティストに依頼をする際、場合によってはうまく合わないこともあるんですか。

吉田さん:あります。基本的に2-3人の複数名で選んでいただけるようにしています。このコンセプトを実現させるためにはどちらのアーティストがいいでしょうかと提案しながら、皆さんとお話をする機会を作っています。

鈴木先生:なるほど。先ほど吉田さんはアーティストに育てられたと言われましたが、アーティストの皆さんが吉野さんたちの作るコンセプトを超えてくることもあるのですか。

吉田さん:ありますね。

鈴木先生:その育てられる中身の話をちょっと聞きたいんですけども。

吉田さん:まず、いろんな方からお話聞くと、それを実現してあげたいと要望をまっとうに受けるところが私たちに当然あるのですけれど、アーティストはそれを同じ方向から見ないで、そこに到達するためにはこう考えても面白いと思うと提案してくれる人もいるのですね。私たちの投げかけに対しアーティストが違う方向から返してくれる提案は、もしかしたら一般の方の感覚も含んでいるかもしれないですし、学びもたくさんあります。

鈴木先生:なるほど、よくわかりました。僕は建築を学んできた人間なので、病院を設計するときはこうあるべきという外せない事項がたくさんあるんですけれど、アートに関してはあるべきものがあまりなくって、その都度、吉田さんたちとアーティストの間のやりとりの中でそのプロジェクトにふさわしい何かが生まれてきて、初めてそこで欲しかったものが見えるのというのがすごいなと。

吉田さん:そうですね、そこがこの仕事のおもしろいとこですね。

鈴木先生: 一方で吉田さんの話を聞いていてすごく思ったのは、アートを設置する意図がはっきりしていて、そういう点ではデザイン的な思考が切り離せないように感じました。

吉田さん:そうですね。特に私たちのように真ん中に入る人たちは、問題解決的な視点も持って計画をしていかなくちゃいけないと思っていて、デザインがイコール問題解決というわけではないのですけど、例えば仕組み作りやマネジメントを総合的にしていくには、デザイン的な部分も、すごくあるべきだと思っています。
やっぱりアーティストって誰に言われなくても何かを表現して伝えたいという方も多いのですが、この仕事は単純に自分だけの作品をつくってギャラリー空間で展開するわけじゃないので、アーティストに考えていただけるように、私たちはいろんなことを配慮しながらデザイン的に構築をしていくことが必要なのかなと思っています。

鈴木先生:アートコーディネーターとおっしゃっているけれど、アートコーディネイトをするデザイナーみたいですね、妙な言い方ですけど。
もう少し実務的なところを伺いたいんですけれど、納期や予算があって、そこに自由奔放な作家さんもうまくスケジュールに載っけるという、その辺の苦労話があれば教えいただけますか。

吉田さん:やはり納期に間に合わない作家さんもいらっしゃるので、それを察知して、納期をちょっと短く言うことも当然ありますし、あとは公共空間に置くということでは、簡単に壊れてしまっては困るので固定方法をアドバイスしたり、病院の衛生上の管理の視点からフォローを入れたりもします。
あとは新築の病院などではアートだけでことが進行しているのではなく、その建築現場の方たちがいろんな形で動いていて、例えば高い場所に設置する作品は足場があるときに納品を合わせたり、建築工事のどのタイミングでアートを入れていくと効率的にできるかを常に考えておく必要があります。それには、設計者や建築現場の方から工程表をいただいたり、病院の方から医療機器の搬入時期をヒアリングしたりして、工程管理もきちっとしておかないといけません。例えば病院の方に提案をする順番も、工程の中で一番最初に納めなくてはいけない作品からで、そういうスケジュール管理も実は我々の仕事でとても大切なところです。

鈴木先生:この講座の1つの目的はそういうマネジメントできる人を育てることですけれど、なかなか簡単にマニュアル化できるものじゃなくて、そういう意味では現場の経験を重ねられている吉田さんの一言一言がやっぱりとても大事だなと思って聞いています。

吉田さん:先ほど埼玉小児の事例をお話したのですが、皆さんに徐々に浸透していくためには、病院の方々にアートワークを意識してもらう環境作りを計画段階からしておくとより効果的になります。どの段階で提案をして進めていったらいいかも実は計算しながらやっています。

鈴木先生:仕事としてはきっと設置したら終わりなんでしょうけれども、結局その後アートが生かされていかないと意味がないわけで、そういう意味ではやっぱり参加型を取り入れたり、600人の看護師にプレゼントするようなきっかけを与えていかないと、その後に繋がっていかないということですよね。

吉田さん:やっぱり使ってもらって初めて、多くの声が出てくると言いますか。よく数値とか効果のエビデンスを求められますが、アートの場合は人の感情が関わってくるところも多いし、同じ条件下で数値を取るのもなかなか難しいと思うと、やっぱり導入後にどれくらい皆さんがそれを使っていて、どう感じているかという声がエビデンスになっていくのではないでしょうか。

鈴木先生:エビデンスとなるとどうしても数値や医療的効果の話になりがちですけれども、患者さんのつぶやきをうまく蓄積するのが案外、大事かもしれないですね。最後にうかがった4歳のお子さんの話はとてもぐっとくるものがありましたし、途中のアーティストの方と繋がりを持ったとかそういうつながりまでできているんだと、心強く感じましたね。数字を求めることを否定するつもりは全くないんですけれども、エピソードを積み重ねていくという方法論も大事ですよね。今日はありがとうございました。


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