2020ヘルスケア・アートマネジメント連続講座 第7回

病院運営におけるアートの役割

耳原総合病院 院長
奥村 伸二

もくじ


本記事は、2020年8月19日オンラインで開催された「2020ヘルスケア・アートマネジメント連続講座 第7回」のレポートです。

医療や介護、教育・福祉という公共の活動は、政策そのもの



今日は、ホスピタルアートに興味を持っている芸術の方とか医療人の方、そして一般の方に、ぜひ医療や介護、教育・福祉という公共の活動は、政策そのものなんだということを改めて認識してほしいという訴えをお話します。それと、ホスピタルアートはこれまで「可能性」というお題をいただきお話しすることが多かったんですけど、今、確実に可能性ではなく、役割だということを強調したいと思っています。

医療現場は、労働集約産業の最たる産業です。我々病院の管理者は必死に医療政策に適合させるために、たくさんの人を雇って、効率性と完璧性という相反する側面の精度を高めることを毎日多重業務をしながらやっています。今は当然コロナのこともあり、我々もギリギリの中で医療を提供しています。そうした医療現場で、アートにはやっぱり、我々の心を癒し使命感を維持させ、人に興味を持たせ続ける、そういう優しさを継続させる大きな役割があるという確信を持っています。

ちょっとだけ自己紹介をしますけど、一言で表すと社会的義理人情主義の人間で、お笑いと料理と歴史小説が好きな生粋の大阪人です。非常に人が好きで、物語やナラティブが好きで、「プロフェッショナル 仕事の流儀」はよく見る番組です。35年前に耳原病院に就職し、2011年に病院長になり、2015年にアートを取り入れた病院を建てました。

うちの病院は386床あり、いわゆるDPC急性期病院として非常に忙しい病院です。毎年7名の新人研修医が入ってきます。大阪に200くらい病院があり、公に新型コロナの陽性患者を受け入れている約70病院のうちの一つですね。




耳原病院は古民家の2階からスタートしています。その後、米軍基地の建物をもらうなどあり、以前は増築を繰り返し凸凹の病院でして、今は建て替えてこんな病院になりました。
この建て替えのときに、アーツプロジェクトの森口ゆたかさんや今うちのアートディレクターを務める室野さんが所属するNPOをはじめ、たくさんアーティストの方に力をもらいました。
うちの病院の理念は4つあるのですけど、一番強調したいのは無差別です。平等というのは結構他でもあるのですが、無差別と入れてる病院は少ないのですよね。うちの特徴です。


病院環境(ハード+ソフト)を通して病院としてのメッセージを伝えたい


さてそれでは、アートを導入し、導入後どうなったかという話を今からさせていただきます。



病院長になる1年数カ月前に新しい病院を建てる建設委員会が立ち上がりました。前の院長がそのまま作っていくかと思っていたのですけど、途中で私に病院長交代が決まり、どんな病院を作るのかとそのときにはたと考えました。当時は東日本大震災が2011年3月に起こり、一ヶ月に数%ずつ建設コストが急上昇している状況でした。非常に忙しくて、どんな病院を作ろうかとか夢を語るような雰囲気じゃなかったですね。新病院建設の主体者はいったい誰なのか、そんなときに病院長になったのです。

そもそも病院長になったときにちょっと問題意識がありました。まず一つ目は、いつも追い立てられているような状況で、人生や将来、家庭について、たわいもないことをゆっくり話し合う時間が持てない。それを何とかしないといけないなという問題意識ですね。
もう一つが、人の話を聞くのには診療報酬ってつかないのですよね。高額な医療機器だとか高額な薬剤を使うと診療報酬がアップする。それでは人間の持つ治癒力が無くなってしまうのではないかという疑問と、あと自己肯定感が持てないような社会だなという問題意識がありまして、病院として、新病院を作るとことによって地域の方に訴える必要があるのではないかとだんだん考えていったわけです。



それと私の趣味とも関係するのですが、院長になってすぐに「異文化コミュニケーション」といって病院外の頑張ってる人たちに講演に来てもらって、その話を聞いて面白がるという会をやりはじめました。今もずっと継続してやっていて、NPOアーツプロジェクトの森口ゆたかさんも13回目に発表していただきました。もともと少し変わったことが好きというか、異文化に非常に興味があったという私の状況も、新病院建設に影響をしていると思います。


ある看護師の「病院を好きになりたいから、ホスピタルアートを」という声



そして、ある2年目の看護師さんが「病院を好きになりたいんです」と、地鎮祭で餅つき大会をしていた私にホスピタルアートを入れて欲しいと言ってきたことが、導入の大きなきっかけになりました。

同じようなときに私が読んだ本にこう書いてあったんです。


地域社会のシンボルは、
過去(17-18世紀)においては教会であった。
現在(19-20世紀)においては銀行であるが、
未来(21世紀)においては病院である。

シュツペーゲス教授/ハイデルベルグ大学(独)

未来の地域社会のシンボルは病院だ、ということでまち作りも非常に意識をしていたんです。その看護師の言葉を聞いて、これは芸術を入れてぜひまちおこしをしたい!と考えて森口さんや室野さんに相談をしていきました。



新病院つくったときの7つのプロジェクトです。お金が無い中でだいぶ叩かれましたけども、約3000万をアートに使っていただきました。


医療現場におけるアートの効果



それで結局、アートディレクターを導入することで、医療現場でどのような効果があるのかをまとめました。
まず職員、患者、家族へのエンパワメント。心理的安全性。リスクマネジメントの力を磨く。風通しの良い、コミュニケーションが良い職場作り。医療以外の専門職の医療現場への関わりを促す。芸術家の発表の場の拡大。多様性の価値観を認める人材育成。医療そのもの、医療安全への効果。どれもこれも病院組織に非常に必要な役割ですけれども、私自身も実感しています。



効果の実例を挙げていきますが、まず腹話術師です。母親学級で私が説明するのとこの人が説明するのではもう違いは歴然でして、非常に和んだ雰囲気で、アンケートでもポジティブな答えをいただきました。



次は耳原病院オリジナルの音楽『Beside LIFE』です。京都精華大学の小松教授に病院環境のために作っていただき、音楽を入れる前と後でアンケート調査もさせていただきました。この音楽、非常に癒されるんですよ。



あとリスク感性を磨くためのアートという視点で、関西大学の亀井教授が非常に興味を持っておられます。亀井先生はもともとリスクマネジメントが専門で、アートはリスク感性を磨くんだとおっしゃっています。リスクマネジメントは究極的には「決断」であり、決断を支えるのは「感性」だというとこで、感性を磨くアートに興味を持っていただいています。


院内のアート委員会と導入のフロー




これは院内のアート委員会です。要するに最初に入れただけで終わりではなく、アート委員会を立ち上げて、日々いろんな職場から上がってくる、アート入れたいとか相談ごとに対応しています。建物完成後もずっと委員会としてやっていることが重要なんだと思っています。
ただアートなら何でも入れたら良いというものではないので、一定のフローチャートをつくっています。



実例として、手術室の職員と当院で手術した患者さんたちがオペ室の壁に、いろんなアートを自分たちで作りました。手弁当で来ていただいたりしました。



先のフローチャートにもあるのですが、ある職場にアートを入れるときには、職場で議論することを一応課しています。うちの救急外来、ERにアートを入れようとワークショップをしてくれたときも、ブレインストーミングをして、そもそも自分たちはどんなERを作りたいかからスタートして、どんなアートを入れるかを議論して、職場の団結も深まったっていうことで、非常に好評価でした。アートを媒体にして、職場作りであったり自分たちの理念を共有することにも繋がったと。地域の消防隊員も自ら駆け付けてくれ、「地域社会のシンボルは病院だ」と先ほど言いましたが、私が目指してた通りになった実例にもなりました。




2019年度アートミーツケア学会のエクスカーションで、うちの病院でやらせていただいた朗読劇の様子です。職員と近隣の商店街の方とかが参加していて、これも非常に職員の団結や、理念の共有に効果があったという事例です。



これは昨年、うちで「患者安全推進地域フォーラム」を開催したときのパンフレットですね。普通こうした医学系のチラシはセンスがないものが多いのですけれど、非常にあのセンスのあるビラを作ってくれました。150名が全国から集まり、おおいに医療安全分野におけるアートの役割について話ができたと思っています。


コロナ禍という非常時にアートの役割を確信


これまでもアートが病院マネジメントに極めて有用であることは分かっていたんですけども、実はこのCOVID、パンデミックとの戦いから本当に役割を確信したということを今からお話ししていきます。
先ほど言いましたように、本当にギリギリの戦いをやってまして、感染への恐怖、経営破綻への恐怖、誹謗中傷との戦い、家族関係の危機などいろいろあります。医療機関同士の申し合わせで患者さんの受け入れの公表もしないと決めてましたので、本当に孤独な戦いだと思ってますし、もうひとつ面会制限もありました。何となく面会を制限すると、効率が上がるだろうと思ってたんですけど、実際は逆でして、ご家族の方からの荷物を預かり配ることも大変でしたし、やっぱり家族の方がおられる方が非常に治療効果が上がります。患者さんのご家族に会えないという不安と恐怖も大きくて。今回、私も医師になって初めて面会制限を経験しましたけれど、大変な状況だと思いました。
その中で、アートチームの作品や活動に勇気をもらったという声がたくさん来ました。紙でも、言葉でも来ましたし、いっぱい来ました。この経験からアートの可能性から役割という表現に変えようと思った次第です。



アートチームがどんなことやってくれたかを具体的に紹介する前に、そもそも病院とはどんなことろかを確認しておきたいと思います。ハンナ・アーレントという哲学者が『人間の条件』という本で、「労働」と「仕事」と「活動」について書いています。
産業革命以降、労働は生命維持のために必要に迫られてお金を稼ぐための苦役だと、こういう労働が支配するような世の中になってきたんじゃないかということが言われ始めるようになります。病院も経営的安定とか拡大再生産ということが大事ですから、どうしてもこの労働を重視するわけですけれども、今回の新型コロナを経験して、やっぱりそこだけではダメだということが痛いほど分かりました。病院は人間がやってますので、仕事とか活動が非常に重要だなと思いました。
それで、この仕事や活動に目を向けさせる大きな要素が、そのアートグループの活動なのだろうと思いました。



これアートチームの室野さんたちが、「COVIDにまつわるアートとデザイン」ということで考えてスライドを作ってくれたんですけれど、まずアートはみんなの表現体であること。「早い」「簡単」「低コスト」って、ファーストフードみたいですけれども、そういうアートをやっていただきました。あとデザインはわかりやすく伝わることということで、本当に誰が見てもわかるアートばっかりとかデザインばっかりだったんですよ。それを一部、今から紹介します。


COVID-19におけるアートの積極的な活用



事例の一つ目は、「Clear Sky Project」という、ただ青空の写真を廊下にたくさん貼りつけたものです。それはもうみんな見てましたね。みんな。僕自身も疲れたときや帰りしなに見ましたね。立ち止まって見てる職員もたくさんいたと思います。
在ロシア日本大使館の方がSNSでシェアしてくれて、ロシアから空とメッセージが続々と届いたと。ロシアから愛を込めてって映画がありましたけど、そんな愛ある写真を院長室の前にもたくさん貼っていただきました。



これは疫病除けのご利益があると話題になったアマビエです。アマビエの鱗に皆の胸のうちを書いていて、だんだん増えていっています。見ると、肉食べたいとか、もう訳の分からないものもありますが、スタッフのストレスや頑張りが見えてきて、涙が出るような思いですね。



「ひかりの子 ラジオ」といって、うちのアーティストの1人が、ラジオを始めてくれました。患者さんも面会制限されていて何か癒やしをということで、リクエスト音楽の院内放送をやり始めたんです。ちょっとその音声を聴いてください。

(ラジオ音声:♪♪ひかりの子ラジオ♪♪みなさんこんにちは、いかがお過ごしでしょうか。この時間は院内で過ごす患者さんや職員に向けてのリクエスト曲をお届けします。J-popから懐かしの歌謡曲、有名なあの曲のピアノアレンジまで、どうぞお聴きください。はじめにご紹介するのは、ペンネーム:朝から夜まで耳原をまもるSさんからです。「今日に感謝して明日もまた頑張ろうと思える曲です」とメッセージをいただきました。リクエスト曲は絢香で『三日月』です、どうぞ。♪♪〜)

こんな感じです。週1回、金曜日だけ放送してますけれども、私は毎日して欲しいぐらいです。



これはうちの病院にいるアーティストが描いている4コマ漫画で、一週間に一度、給食のときに添えていて、こういったことで患者さんに喜んでもらって、コロナの情報を伝えたりしています。

先ほど言いましたように面会ができないので、不平不満が出るかなと思ってたのですが、アートチームのおかげで、そんなに大きなトラブルが起きるようなことはなかったかなと思っています。


可能性から役割へ。病院におけるアートは経費ではなく未来への投資


そろそろ最後のまとめに入ります。先のハンナ・アーレントの言う『人間の条件』に加えて、病院ってそもそも何のために運営するかを考えると、やっぱり傷ついた人を救い・癒やすという目的があって、人にやさしく他者への尊敬の念を持たなければいけないんですよね。ですから、そういった理念とか考えを醸成させるためにはアートが非常に役立つと思ってます。
アートは多様性の塊ですので、医療においても弱者にも等しく無差別平等だというような概念、そういう人を大事にする象徴としての役割があるのではないか。もううちの病院はアートがなければ成り立たないというぐらいの役割があると思っています。



そういうことでちょっとしつこい話ですけども、可能性から役割ということなんですね。コロナ禍で半年もの戦いが続いているので実のところちょっと感傷的に私自身なってますし、現場のスタッフも相当大変だと思う中で、本当にアートが癒やしてくれたなと、アートを入れてて本当に良かったなというのが今の実感です。



ちょっと「安全」についてもお話します。このSafety-ⅠとSafety-Ⅱという考え方が、医療安全の中であるんですけども、そもそもリスクマネジメントするのは経費だとSafety-Ⅰでは考えられていました。だから経営者は、そういうリスクマネジメントにお金を出したくないという考え方でいたんだけれども、Safety-Ⅱは実は未来への投資としていて、考え方が変わるきっかけになっている本があります。この著者ホルナゲルは非常に異文化が好きな方で、アーティストとしての考え方も持ってらっしゃるような方なので、本当に時代が変わるなと感じました。そういうときに自分が病院の経営に関わらせていただけてよかったなと思っているところです。



最後のこのスライドが一番重要で、可能性が終わって役割の時代になったということで、私の話を終えたいと思います。芸術家の方々、ぜひ我々医療人とタッグを組んで患者さんのために、できることをやりたいなと思ってます。


質疑応答 アートの多様性が職場環境を改善


「4人もアート担当スタッフがいるということですが、アートのお仕事だけをされているのでしょうか」


ほぼアート、プラス広報ですかね。それと職員からのいろんな相談事やイベントごとの対応ですね。広報担当ですから、さっきの「異文化コミュニケーション」の手伝いをやっていただいたりとかしています。


「アートで心理的な安全を演出できたという具体例を教えてください」


アートは多様性の塊だから、職員のこうでなかったら駄目というこだわりがだいぶ減ったんですよ。仕事をやる上で、こうでなかったらあかんということがあればあるほど、非常に組織はリジッドになりますよね。これでもいいんだと意見が言いやすくなる。先ほどのEの活動は、以前の様子を僕たちは知ってるから、もう素晴らしい変革なんですよ。前は、我々は救急者を診るとこなんだ、というすごくガチガチな職場でしたが、今は何でもしてくれるようになりました。
リスクマネジメントで一番重要なのはコミュニケーションであると言われますが、アートを導入することによって職員がポジティブに発言しやすく、垣根の低い環境を作っていると思います。


「医療者等お忙しい中どのような工夫をしたらアート活動への実践が可能なのでしょうか?」


導く人が必要です。アートディレクター の存在は大きいと思います。


対談 奥村 伸二×鈴木 賢一



鈴木先生:今日はいろいろ触発される言葉があったんですけど、「病院は人がやってる」と一言おっしゃったのが、結構ズキンときました。たしかに病院は人がやっていて、診るも診られるも人同士なので、もうちょっと人と人との関係が本来はあるはずですよね。

奥村院長:特に忙しくなると、お互いパーツしか診なくなりますし、人の営みということをついつい忘れがちのところはありますよね。今回のコロナでいっそう葛藤がありますよね。相当、職員はこたえています。

鈴木先生:大変でしょうね。

奥村院長:自分の感染、家族への感染、誹謗中傷とか、そういった不安や現実のある中で、自分たちの心を支え鼓舞して、患者さんに相対しているのは並大抵じゃないです。本当によく頑張ってくれていて。その中で、さっきも言ったように、アートディレクターのチームの力は大きいですね。廊下に空の絵をずらーっと貼るとか、アマビエに書き込ませるように思いを吐露させるとか。そういう発想は私にはなかったですね。やっぱりアートが日常的に病院にあったっていうことが大きくて、アートには役割があると本当に感じました。

鈴木先生:しかし、先生が病院建設にちょうどぶつかられて、1人の看護師さんからホスピタルアートをという声、あれは本当に偶然だったんですか。

奥村院長:全く偶然ですね。主体者を増やさないと駄目だと思っていて、何か勝手に作られたでは団結上まずいだろうとか、いろんな思いがありましたんでね、新しい病院に何を入れるかっていうプレゼン大会をしたんです。彼女も6組ほど出てきた中の1組であって、彼女が本当にそうプレゼンしたんです。

鈴木先生:プレゼンの場を設け、それを受け止めたということがすばらしいですね。そこからコトが始まっているのですから。先生は異文化ということ何度もおっしゃっていて、病院の中に外部の空気を入れようとしている。それはどういう考え方なのでしょうか。

奥村先生:一番の目的は何かと言いますと、実は今の若い職員の人たちに医療以外の営みに興味を持って欲しかったんです。そして患者さんと話をして欲しかったんです。相手の言ってることが分からなかったら話にもならないんで、それで始めました。なかなか若い職員は参加しないですけれども。

鈴木先生:しかし、病院そのものの歴史についても、確か室野さんがアートの中に織り込んで耳原の成り立ちを上手く伝えていますよね。そのことが耳原の皆さんの団結力の一番の根底にあるとも思っていて、素晴らしいなと思っていました。

奥村先生:教えても心に残らないことって多いんですけれども、もう室野さんが壁面にうちの成り立ちを描いてますからね。忘れようとしても忘れられないと言いますかね。だからアートディレクターだけれども、芸術の作品を残すということだけじゃなくて、プラスアルファがやっぱり大きかったと思います。だから英国のチェルシー&ウェストミンスター病院のような、いわゆる芸術学芸員という側面だけではないのがうちの病院にとっては大きかったのかなと。

鈴木先生:奥村先生はまち作りというキーワードも出されましたが、医療も教育もどうしてもまちの中から孤立するというか、まちに繋がってる感じがなかなかないんですね。でも耳原はまちに何かこうグラデーションのように繋がる有り様があって、地域の中で特殊な場所になっていないように感じるんですけど。

奥村先生:本当にね、病院特有のストレスがないですね。僕はワクワクドキドキするような病院を作りたいって思ってましたから。

鈴木先生:耳原だけが特別ではなく、だんだんこうした病院が普通になっていってくれるといいですね。でも、やっぱりそこには理解あるトップの方だとか、あんまりアートとかデザインとかこだわりすぎないディレクターが必要かなって思います。
それから、今日先生が無差別平等というお話されていて、今、コロナの件で誹謗中傷であったり何か人間の嫌な側面ばっかり聞かされるので、改めて無差別平等という言葉がすごく響いたんですけど、やっぱりそこはアートの役割があるんですかね。

奥村院長:そうですね、アートという異文化、芸術を通して多様性を認めるといいますか、そういう一つひとつに対して同じようにリスペクトするような視点を持つことは医療の中で働く人たちにとっては必須の要素だと思いますね。ぜひアーティストの方には病院の中で場所を見つけて、大いに闊歩してほしいなと思います。

鈴木先生:アーティストの表現の場として病院を、と先生が書かれてましたけど、アーティストにとって表現の場が広がる可能性があるということで、美術館だけでアートを展示するんじゃない、すごく開けた未来があって、しかも人に直接的に気持ちの変化を与えるという場はすごいなと思います。

奥村先生:病院ってやっぱり病気になって入るところですから、本当に見つめるんですよ、自分のことを。絶対に見つめるんです。そのときに傍にある芸術作品は意味が大きいですよ。アーティストにしてもそういう人たちに作品を見てもらえるのは、値打ちがあるんじゃないかなと思います。

鈴木先生:耳原で取り入れられるアートは、例えばラジオであったり、院内で流す小松先生の音楽であったり、あるいは青空やアマビエであったり、何か多様というか何でもありみたいなところがあって、それはアートディレクターの皆さんを信頼してお任せしてるということなんですかね。

奥村先生:もう僕はもう毎回毎回、ああこんなおもろいものがあったんやと、その連続ですよ。クリアスカイ、あの空もすんごい癒やされるんですよね。他にも、実は紹介していないものもいっぱいあるんですが、いつの間にかアート以外の職員もやり始めるんですよ。例えば職員の階段があって、みんな階段で登ろうって呼びかけて音楽を流し始めます。リクエストCD受け付けて、一週間に一回好きなCDをその職員の階段のところで流すんです。そんないろんな取り組みがだんだん増えてきています。

鈴木先生:それは毎日病院に行くのが楽しいですね。

奥村先生:僕が唯一この間やったのは、今コロナの時期はアルコール液でよく消毒をするでしょ。消毒したら何か音が鳴るようにしようって僕、言ったんですよ。ぐっと押したら「毎度おおきに〜」ってのが鳴るようなアートを作ってくれたんです。面白かったですね。
うちの職員は本当に偉くて、今コロナ禍の中でも嫌な顔せずにやってくれてます。もちろんアートがあるからかどうかは分かりませんけれども、少なくともそうやって人の痛みが分かるような職員が、たくさん出てきてるんだなと思ってます。それを育てるのは別に病院の幹部だけではなくて、一般の市民の方とか行政の方とかアーティストの方とか、みんなに育てていただくという観点で、一番初めの話をしたところがあるんですけど。

鈴木先生:先生が最初におっしゃられた医療や教育や福祉介護と同じように、アートが社会のインフラストラクチャーのようにあることで、実は居心地がよくなったり、知らない間にコミュニケーションが発生しているというような効果があると思うので、政策の中にもしアートが位置づけてもらえたら、これ以上のことはないって思います。可能性可能性と言ってる間は、やっぱりまだ先は遠い気がしてしょうがなかったです。

奥村院長:役割ですよね、本当に。先生たちがこういう努力されてることが大きく花開いたらいいなと思ってますけども。

鈴木先生:各地で皆さん活動されているので、そういう方がいろんな形で繋がっていくことだけでも、支えになるというか、自分1人じゃないと思えるので。今日の先生の話は、ある意味面白がってやられてるのが非常にいいなと思うとともに、最後の締めにふさわしいお話をいただけてよかったなと思っています。

奥村院長:いやいや。先生がおっしゃったように楽しんでやってるというのが実感です。だからアートをやってない病院では、本当にどうしてるのか、日々どんなことで癒やされてるのかなと心配になります。またコロナが終息したら、ぜひまた病院の方にもぜひ寄っていただければと思います。どうもありがとうございました。


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