事例紹介

子どもの医療・療養環境とアートマネージメント

篠原 佳則

NPO法人子ども健康フォーラム/株式会社安井建築設計事務所

もくじ


本記事は、2019年8月22日に開催された「2019ヘルスケア・アートマネジメント連続講座 第6回」のレポートです。

病院内プレイルーム「わくわくるーむ」贈呈式


私は安井建築設計事務所であいち小児保健医療総合センターの設計をした関係で、いろいろな子どもの専門家とディスカッションしていました。そしてそれをそのままNPOにして、日本全国の小児病院にプレイルームをつくる支援をしています。アートについても、いろいろ思うことがあるのですが、その原点のようなことを、今日はお話したいと思います。



今年の8月1日。島根大学医学部付属病院の「マニュライフわくわくるーむ」がいよいよ完成したので贈呈式をしました。真ん中がNPOの理事長、右側がマニュライフ生命の役員、左側が島根大学医学部付属病院の病院長です。背後に衝立を立て、マスコミに向けてちゃんと発表するということをしています。



子どもたちがテープカットをして、わくわくるーむができたことをお祝いしています。小さい子から大きな子まで対応したプレイルームで、これは小さな子のコーナーで贈呈式のときに遊んでいる様子です。贈呈式に参加している人はお子さんを含めて撮影許可をもらっていて、そうすることで、このプレイルームができたことをいろんな人にPRしています。



去年の10月、大阪の急性期総合医療センターでの贈呈式の模様。大阪府と大阪市が共同運営していて、大阪府副知事の「もずやん」も出席しています。マニュライフ生命の社長がきて一緒に遊んでいるところ。こういう絵を撮って、マニュライフ生命が子どもの環境にお金を出しているとPRしています。


様々な年代の子ども向けの空間がある、スウェーデンの医療環境



NPOで病院内にプレイルームをつくる活動を何年かやっていますが、その原点になった話をします。
あいち小児保健医療センターをつくる前の1997年にスウェーデンの小児病院を見にいきました。これはヨーテボリの総合病院の中の小児科で、玄関を入ると難破船がどんと置いてある。普通、病院では子どもが落ちたら危ないものはつくらないのが基本ですが、ここではあえて冒険する場所をつくっています。



子どもたちが遊ぶプレイルームなど、いろんな部屋があるのですが、玄関からそこに行くまでに、ものすごく長い廊下がある。なにもなかったら非常につらい廊下だと思うのですが、こんなふうに、たぶん子どもが描いた絵を大学生がパッチワークして赤い線でつなげたものが、大人だとしゃがまないと見えない高さで、ずーっと連なっています。



プレイルームの中にごっこ遊びの部屋が仕切ってあって、おもちゃが棚いっぱいあります。この時は一日に病院を2、3か所まわるとてもたいへんなツアーで、みんなすごく疲れていて、ここに行って何をしたかというと、まず大人が遊ぶ。30分くらい遊んでからお話を聞いたのですが、大人が行っても遊べるような場所を用意している。おもちゃといっても、大人も遊び込めるしっかりしたおもちゃが置かれているのです。



窓にはこのようにトップシェードがあって家庭的な雰囲気です。日本の通常の病院だとNGですよね、ほこりがつくということで



ティーンエイジャーの部屋。プレイルームは小学生の低学年までが遊ぶイメージで、高学年や中学生になると、プレイルームしかないところだとベッドの上でカーテンを閉めて読書かなにかしているのか、外に出ない。こういう部屋があると、中高生も音楽したりくつろいだりできます。



「プリパレーション」のコーナー。大人でいうとインフォームド・コンセントみたいなものですが、治療する前の子どもたちに「今度こういう治療をするんだよ」とちゃんと説明する。というか、これを使って遊んだりする。これにはけっこうなテクニックがいるので、スウェーデンではプレイセラピスト、アメリカではチャイルドライフスペシャリストがプリパレーションをしています。ベッドやレントゲン、その上にモビールのようなものがあります。



屋外スペースも砂場や小さい子が安心して遊ぶために低い柵で仕切られた場所、少し大きな子が遊ぶための場所と段階的につくられていて、安心して外に出せるようになっています。


病児に最初に接するのは、医療者ではなくプレイセラピスト



スウェーデンの都市のひとつであるトロルヘッタンの総合病院の絵ハガキです。小児科病棟は赤い丸のついている平屋の部分です。
玄関を入ると壁面いっぱいに絵が描いてあって、病棟まで続いています。スウェーデンの民話がモチーフで、上から下までしっかり塗っていますし、望遠鏡や木々が半立体になっています。出っ張っていてもいいんだ、とこのとき思いました。出っ張っていると雰囲気があるというか、そのものに見えるというか。絵画だけだと光の加減で薄っぺらく見えてしまいます。



プレイルームの中で座っているのがプレイセラピストのイボンヌさん。この分野では有名な人です。彼女がいうには、「昔は子どもに対してお医者さんがいて、看護師さんがいて、最後に保育士さんのような順番だったのが、スウェーデンでは今は子どもに最初に接するのは、医療する人ではなくて保育士さんというか、プレイセラピスト」だと。なので、さきほど見ていただいたように、空間をちゃんとつくっているし、いろんな部屋がたくさんある。「社会のために、子どものために、どうしたらいいか考えたときに、やはりそれがいいと考えてスウェーデンはやっている」といわれました。


日本の小児医療で子どもに最初に接する順

スウェーデンの小児医療の場合


これはすごく重要なことで、お医者さんがやろうとしても、ああいうふうにはならないと思うんですね。この人がいちばん大事だ。その考えをもとに建物をつくっているので、あのようにできるのではないか。
今の話は、スウェーデンではわからなかったのですが、日本に帰ってからつくづくそう思いました。やはり、子どもが遊ぶことに関してはちゃんと保育士さんなどの専門家に聞かないと、と思います。



オレブロの目の見えない子どもたちのための支援学校。平屋で非常にゆったりしたところです。
玄関を入ったところの廊下。右側がレンガで、左側がペンキ塗りです。触ることで方向がわかるように、こうしてあるのかなと思います。たびたびこういうデザインにであいました。



障害がある人に対して、ヨーロッパだと「スヌーズレン」というものがあちこちにあります。音と光でゆらゆらするもの、映像がぱっぱと切り替わるもの。こういうものがあるところで過ごすことで、クールダウンの効果があるようです。障がいがある子や知的障がいの人のことが話題になってきているので、日本でも取り入れられると良いといつも思うのですが、日本には製品がなくてヨーロッパから買わないといけない。ただ、けっこう値段が高いわりに安っぽい。でも彼らはこういうのも大事だと思ってやっているのだと思いました。

*オランダ語の「くんくん匂いをかぐ」と「うとうとする」という2つの言葉をあわせた造語で、心地よい感覚刺激(光、音楽、触感、香りなど)を提供し、それらを楽しみながらリラックスしてもらう活動のこと


子どもの療養環境研究会から、あいち小児保健医療センターへ



スウェーデンに行ったのは1997年。ここでいろんなものを見て、子どもの療育環境研究会をスタートさせました。外国の事例を取り入れ、運営に対する考え方なども共有しながら、あいち小児保健医療センターをつくっていったという歴史があります。
センターができあがっていく最後の段階で「わくわくるーむ」をつくりました。病棟内のプレイルームにわくわくるーむという名前をつけたわけですが、これを「マニュライフわくわくるーむ」として全国に展開する、というアイデアでスタートしました。
(マニュライフ生命の)カナダ人の考えだと、子どもの療養環境に関して日本は非常に遅れている。途上国にオペ室をひとつプレゼントする感覚で、まるごと一式プレイルームをプレゼントするという発想で来られたので、受けました。一式いくらでできますよ、というようなことからスタートしています。



2008年の『Hospital development』という雑誌のコピーです。2007年にイギリスから視察団がきました。生育医療センターやあいち小児保健医療センターをしっかり見ていただいて表紙にもなったので、わりと注目されたのかなあと思います。
彼らがピックアップしたのは、ストーリーがあってキャラクターがいること。スウェーデンに比べたら非常にかわいいものですが、日本でこれをやるのはけっこう大変で、誰かにとられるのではとか、絵が汚れるのではないかとか、いろんな話がありました。でもやってみると、15年くらいたちますが、あまり汚れてもいません。ちゃんとしたアートというか絵を描いたのがポイントだと思っています。エレベーターの扉にも全体のストーリーに合わせた絵を描いています。MRIにもこのように絵を描きました。いまは機器が更新されて、絵のない、さらに進化したかたちのMRIになっています。


企業の資金援助によって子どもの療養環境の向上を


マニュライフ生命が資金援助をして、子どもの療養環境向上のためのアイデアを募集しています。14年間で97件、1件あたり平均16万円の助成がでています。そんなに大きなお金ではないかもしれませんが、あらためて見てみると、あいち小児保健医療センターができたころに比べると、子ども病院では療養環境を考えるのが普通になってきていますね。これはちょっとしたことですが援助することによって、いろんな方が努力して実現してきたことで、こういう雰囲気ができてきたと思い、自分でよくがんばったなとほめているところです(笑)。



あいち小児保健医療センターの「わくわくるーむ」です。病院内の30平米くらいの空間に、レール遊びやごっこ遊び、ルール遊びなどいろんなコーナーがあるプレイルームをつくっています。必ず保育士さんのような人がいて、遊びの様子を見ています。ほとんどドイツの木のおもちゃで構成しているので、大人が見てもちゃんと遊べそうというか、雰囲気が悪くないな、というものになっています。
マニュライフ生命の支援により子どもの療養環境向上のためのアイデア募集を始めたのですが、すぐに、「篠原さん、もっと迫力のあるものがないの?」とマニュライフ生命の担当者の方から言われました。あいち小児保健医療センターでわくわくるーむをつくって、ひと部屋整備していくらというのがわかっていたので、「プレイルームを一式作り上げることはできますよ」と言ったら、実現できました。12年間で16か所つくっています。

整備のやり方はさまざまです。わくわくルームを整備した16か所のうち5か所は家具等の配置設置のみ。4か所は、既設改修といって、プレイルームや食堂だったところをつくり直しました。4か所は別用途転用改修で、もともと病室や検査室だったところをプレイルームにするなど、部屋の用途をかえてつくりました。新築工事中にわくわくるーむを支援することが決まって工事中から助言をした病院も3か所あります。

既設改修、別用途転用改修、新築工事中の支援については、病院側が改修工事費をだしています。マニュライフ生命わくわくるーむの支援先に決まってやりはじめると、ついでだから改修工事をという話になってきて、病院側がお金を出してくれる。医療機器を買うことに比べれば、一部屋を改修するのは、それほどの費用ではないと思うんですね。NPO子ども健康フォーラムがわくわくるーむの支援先としてふさわしいと決めて、話を進めていくと、病院内の事務方とか院長の関心が向いてくる。それでお金が出てくることになります。
工事中から関与する場合、施工会社といろいろ調整する。この場合も単純にわあわあ言っているのではなくて、NPOという団体がある見識をもって発言することによって、助成を出す方にも協力してもらって、もともと発注しているのと同じお金でより良くする、ということになっていると思います。

アートの整備でいうと、ほとんどのところで装飾をしています。やっていないのは大阪府立母子保健総合医療センターとか茨城県立こども病院ですが、ティーンエイジャーの部屋なのでキャラクター的なものより家庭的な雰囲気にしたほうがいいという判断でそうしています。ほかのところは必ず装飾的なことを、たとえばサインにキャラクター的なものを入れたりしています。

アイデア募集とリンクしている事例がけっこうあります。アイデア募集は10万、20万円のレベルなので、保育士さんのアイデアで応募するわけですが、やっていくなかで、わくわくるーむという数百万レベルの事業でも病院の中でやりやすくなる。ちなみにアイデア募集は個人でできますが、わくわくるーむは院長を含めて支援を受けることをちゃんと認識してくださいと、院長印を求めています。保育士さんがいきなりわくわくるーむに応募するのはけっこうハードルが高くて、「ためしにアイデア募集をだして、それからわくわくるーむ」という流れがあるような感じはしました。


十代向けの部屋も 島根大学医学部付属病院「わくわくるーむ」


ここからは、実際のプロジェクトの進め方をお伝えします。島根大学医学部付属病院のわくわくるーむです。



南東角にNICU(新生児特定集中治療室)があったのですが、最近の流れではNICUは産科といっしょにしなくてはということで、小児科で使っていいかと小児科部長が提案されて、ここをなんとかしようという話になりました。そうでもないと、これだけ大きなエリアは確保できないです。




こちら改修する前のNICUです。その隣にプレイルームと食堂があったのですが、食堂とプレイルームがいっしょになっていて、なおかつ無菌病室に行くための通路もあって、プレイルームに壁がなく、コーナーがつくれない状態でした。「ごちゃごちゃしていますし遊びにくい」とスタッフの方たちも言っていました。


改修までには時間がかかりました。2016年9月、さきほどのエリアをつくり直したいと応募があったのですが、内容不十分で落ちました。しかし、山陰初となるわくわくるーむをぜひ実現させたい。「まずはアイデアを」と翌年提出してもらったのですが、あまり進んでいなかった。そこであいち小児保健医療センターのわくわくるーむを実際に見てもらい、保育士さんとも話し合ったうえで、病院にもち帰ってもらいました。
2018年2月に我々が現地に行って改修案を確定し、研究会でもう一度成果を発表してもらいました。それをもとに再度応募していただいて現地審査をするのですが、すでに改修工事の設計図ができていました。病院としてはこれでやると決めていて、それならと、11月に支援先に決定しました。12月から工事開始、今年の3月に完成しました。そのあと実際にどう整備するかチューニングして研究会で発表してもらい、8月1日に披露したという流れになります。

アイデア募集のときにだした改修案のポイントはなにかというと、プレイルームのところにパントリーがオープンになっていたのを封鎖して、ここ全体をプレイルームとして使えるようにしようと考えた。プレイルームにはミッフィーがはってあったりしたので、それも生かしてプレイルームとして使おうと。パントリーは患者さんの食堂につなげました。授乳室を残して、AYA*ルームと多目的ルームをつくりました。多目的ルームは、小児病棟のエレベーターホールでクリスマス会をやったりしていたので、それをするのにちょうどいいし、卓球などもできる。

*AYAとは英語のAdolescent and Young Adult(思春期・若年成人)の頭文字をとったもので、ここでは思春期世代の患者を指す。



最終形がこういうかたちです。以前のプレイルームはマットを敷いてその上で靴を脱いで遊んでいたのですが、議論の末、全体を下足ではないようにしようと、ここだけ床材をかえて履き替えをするかたちにしました。衛生の問題だと思いますが病院の中で議論があって、ようやく履き替えをすることになった。プランがきまってから少し時間がかかりました。ここにはチャイルドライフスペシャリストがいて、その方が他施設のチャイルドライフスペシャリストやホスピタルプレイスペシャリストの方に聞くとみんな「下足じゃなくて上足がいい」と。そういう事実をもって説得されたようです。

ティーンエイジャーのためのAYAルームもあります。このあたりは小児科専門エリアですが、ほかの病棟に入院しているがんの子どもさんにもAYAルームを開放しようと。実際、ここには漫画本があって、このまえ見にいったらけっこうお母さんたちが借りている。やはり暇つぶしがほしいのですよね。職員の方もたまに休んでいるみたいで、それもまたいいのではと思っています。


壁材サンプル


壁や床の材料ですが、材料の小さなサンプルを見てもわからない。それで大きなものをもってきて合わせ、自分の目でちゃんと確認する作業をします。最終的にスタッフの方に見せて話をして材料を決めます。AYAルームのひとつの壁が紺色になったのですが、このあたりは実際に病院にいる中学生くらいの子たちにいくつか見せて、「これがいい」ということで決めた。なかなか決まらないときは、「子どもが決めた」というと決まりやすい。納得してくれます。僕が「これがいい」といってもなかなか決まらないのですが。


実際の食堂です。NICUにしていたのはもったいなくて、非常に景色がいいところなので、窓の外を見ながらごはんが食べられるコーナーも設けました。カーテンも病院の人と、病院の人が子どもに聞いて決めてもらったりしました。


病院らしくない部屋をつくることが大事



AYAルーム


並行してAYAルームの家具の選定、図書の選定。そして全体的にコーディネートしていく。スタッフの方の意見で業者さんを紹介しながらこちらで見渡しながら決めていきました。
ここでテレビをみたり、勉強したり。ダイニングテーブルがあって、リビングルームのようなコーナーがあって、普通の家のような雰囲気にしてあります。病院の中っぽくないと思いませんか? 病院の中にはみえないようなところをつくっていくのがすごく大事と思います。


スケッチ


改修前


改修後


多目的ルームとAYAルームの入り口です。せっかくつくったのに非常にさびしい場所になってしまったので装飾しました。無理して装飾をする必要はないと思いますが、どうもマイナスというか暗いイメージの空間にはアート的なものがほしい。電話でいろいろやり取りをして、こんなかたちになりました。マニュライフ生命のキャラクターでビーバーがいるのでビーバーも登場させたりしました。


エレベーターホールからいくと正面にサインがあります。マニュライフカラーの緑も使っています。



次は、大阪急性期・総合医療センターのわくわくるーむプロジェクトです。ここも多世代がくるということで、赤ちゃんコーナーやままごとコーナー。中学生や高校生もくるので、作業コーナー、勉強コーナーもあります。スタッフルームの前にあって、様子がわかるようになっています。


作業風景


できあがり


絵を描いているところ。森の中の妖精をかいてほしいということで、7人登場しています。もともと病院で壁面遊具を購入されていたので、壁面につけました。




入り口床にあるグリーンの丸は、マニュライフカラーということで、プレイルームを特別の場所だと表示しようとしました。サインは椙山大学の学生さんにステンドグラス風のデザインしてもらっています。
妖精を院内の新聞やあちこちの案内に使うというので、データを切り取ってプレゼントしています。プレイルームをつくるときは、こういうシンボル的なものをつくったりしています。

アートマネージメントについてですが、僕自身が絵を描けるわけではない。ただアートをやっていくうえでは必ずいろいろ交渉することがあります。意見を調整してアートをつくっていく。マネージメントをすることが大事かなと思っています。調整する相手もいろいろだし、お金の話もありますし。
医療療養環境においてアートを導入すると、そんなにお金をかけるわけでもなくても非常に効果があると実感しています。実際これまでいろいろやってきて、こんなのをつくってとんでもない、という話はないですね。以上です。